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2024.04.26‖
冬コミで配ったペーパーの別バージョン。
千秋がへたれです。



 どん、と勢いよく床に頭を打ち付けられた。衝撃に目を閉じると、腹の上にずしりと生暖かく重いものが乗っかった感覚がある。
「〜〜〜〜ッ!」
 頭を襲う痛みに唸りながら、東金は目を開ける。そして、ことばを失った。腹上にいたのは、恋人である八木沢だったのである。
「………ユキ?」
 何故か不機嫌そうな八木沢に、東金はおそるおそる問いかける。
 すると、ますます八木沢の眉はよせられて、しわが深くなった。重いため息が八木沢から落ちる。
「千秋、いい加減にして」
「は?」
「ずっと、逃げてるでしょ」
 八木沢に断言されて、東金は目をさまよわせた。なんとなく後ろめたかったのだ。
 東金と八木沢が「恋人」として付き合うようになったのは、高校を卒業するほんの少し前の話だ。だから大学生になってひとりぐらしをはじめた八木沢のところに、よく東金が転がり込むようになったのは自然な成り行きだった。東金自身は、神南の大学部に持ち上がっただけなので、普段は関西に居住していたが、隙あらば八木沢のところまでやってきた。八木沢もしかたないなと笑いながら許してくれている。この空間が、東金は好きだった。
 つきあって二年目。こんなふうに、日溜まりみたいなやさしい時間が続くのだと、東金は信じていた。
 だが何がきっかけだったのか、今回の訪問で八木沢は過剰なスキンシップをしてくる。考えてみれば恋人とは名ばかりで、恋人らしい接触をしてこなかったことに気づいて、東金は動揺した。なんとなく、おさないころの関係のまま来てしまったのだ。触れたいとか思わないでもないのだが、一緒にいればそれなりのスキンシップはあって、健全なままの関係で満足している部分があった。
 八木沢が甘やかしてくれるから、充分心は満たされている。身体が満たされているかと問われれば否と答えるしかないのだが、八木沢といると妙に清らかな気持ちになってしまうのだから仕方ない。八木沢だって淡白なところがあって、そういう気配を醸し出したこともないのだ。
 けれど、今日の八木沢は違った。本当になにがあったのだろう。身体をくっつけてきたり、甘えてきたり、正直かわいくて仕方ない。だが、東金は腹が据わっていなかった。劣情を催しそうで、そんな八木沢からは何となく距離を置いてしまう。それが八木沢の気に障っているだろうことは明白だった。
「僕は、君のなに?」
「ユ……、ユキ。とりあえず、降りてくれん?」
「駄目だよ、千秋。逃げるつもりでしょう?」
 ずばりと図星をさされて、東金はことばを飲んだ。
「な、何があったん?」
「何もないよ。何もないからこんなことしてるんじゃないか!」
 むっと頬をふくらめて、八木沢はさきほどと同じ問いを投げかけてくる。
「ねえ、千秋にとって、僕はなに」
 八木沢の目が、少しさみしそうで、東金はすぐに答えることができなかった。
「……恋人、やろ」
 数拍のあと、東金はかすれた声で答えた。情けない。声が震えないようにするので精一杯だった。
「それなのに、何もしないの?」
 東金の目をのぞいて、八木沢はぽつりと尋ねた。その眉が、怒りではなく寄せられている。東金には声もない。
「恋人なら、することがあるでしょう? それとも、僕がしたほうがいいのかな?」
 八木沢は東金の腰に乗ったまま、上体を前へ倒した。お互いの顔が近づいて、あと数センチ動けばくちびるに触れる。その距離で、八木沢はじっと東金を見つめた。息を飲んだのどが、ごくりと動く。
「ねえ、千秋?」
 八木沢の息がかかる。体温が近い。どくどくと心臓が脈打つのがわかる。頭の中がぐるぐるとして、思考がまとまらない。
 けれど、八木沢の視線はそれを許すものではなかった。
「俺、は……」
 決断を迫られて、東金はのどを上下させて喘ぐ。
 答えない東金にじれた八木沢が、ぐっと眉を寄せた。八木沢の、決意を秘めた瞳が、長いまつげで隠される。いつもは穏やかに微笑んでいる口もとが薄く開いて、角度を変える。互いの呼吸さえ逃さぬ距離に、東金は勢いよく八木沢の肩をつかんだ。驚きに浮き上がった身体を反転させて、体勢を逆転させる。八木沢に覆いかぶさったかたちで、東金は空気を飲んだ。
 目の下には、驚いた顔の八木沢。暴れたせいで、いつもはきっちりと整っている髪や服が乱れている。生まれのせいか白い肌にも血が上って、薄赤に染まっていた。ふたりの間にあるのは、静かな息だけだ。
「ユキ………」
 東金は低く囁く。そして、八木沢の肩をおさえている手に力を入れた。
 そして、
「すまん!」
 叫ぶように謝ると、東金は八木沢の上から飛び退いた。そのまま電光石火の身ごなしで額を床につける。起きあがった八木沢は、大きく大きく息を吐いて、胡乱な目つきを投げかけてくる。その刺さるような視線にちらりと目を上げると、にこりと八木沢は微笑んだ。
「千秋。いい加減にしてって、僕、言ったよね?」
 笑顔が怖い。絶対零度の響きに背筋が凍る。
 びくびくと八木沢の挙動をうかがう東金に、一段と深いため息を吐いて、八木沢はずいっと身体を乗り出した。またも近寄ってきた八木沢から距離を取るように身体をのけぞらせた東金の首元をおさえて、八木沢は首をかたむけた。押しこまれるようにくちびるが触れ合って、東金は自分の不甲斐なさを呪った。


2010.12.29up
冬コミで配ったペーパー結末が違うだけのテキスト。先にテキスト化したのはこっちでした。
でも、これじゃ千秋が駄目すぎると思って、ペーパーのほうはもうちょっと頑張らせました。ほんの少しだけど(笑)。
千雪書いてきたなかで、これが一番BLぽかなーと思ったりしました。
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