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2017.10.23‖
 B6/56P/¥500/2010.12.29発行



「考えてみろよ、相手はあの冬海だぞ?」
 どういう会話の流れなのかはわからないが、どうやら笙子のことが話題にのぼっているらしい。こんなときに声をかけてもいいのか迷う笙子の前で、土浦は渋面を作った。
「絶対泣かれる。面倒だろ、そんなの」
 はあ、と息を吐き出して、笙子が聞いていることにも気づかずに、会話は続く。背の高いふたりは、笙子のほうを振り返りもしない。これが土浦の本音なのだ、と笙子は愕然とした。そして続く加地の言葉は、さらに傷をえぐる。
「面倒って……。そんなふうに言うなら別れれば?」
「まあ、そうなんだよな。いろいろ気は遣わなきゃならないし、何考えてんのかわからねぇし、すぐ泣くし……」
 加地は、きっとそんなつもりで言ったのではないだろう。笙子だって、きっと否定の言葉を吐いてくれると思っていた。だから、土浦の言葉を消化するのに、数秒が必要だった。言葉の意味を理解すると、目の前が絶望に染まって真っ暗になったような錯覚を覚える。震えそうになる体をおさえて、笙子は土浦に見つからないように踵を返す。できるだけ早く、ここから逃げ出したかった。
 胸が潰されたように痛い。
 鼻がツンとして、目の奥が熱い。
 唇を噛み締めて、顔を伏せた。
 たくさんの人にぶつかりながらエントランスをあとにすると、笙子は人気のない階段下に逃げこんで、細く長く息を吐き出した。喉が震える。苦しい。
 そして、ああやっぱり、と、どこか諦めに似た気持ちがわきあがってくる。土浦が好意を寄せてくれていたなんて、やっぱり勘違いだったのだ。
 身体が力をなくして、壁を背中にずるずると座りこんだ。ぎゅっと膝をかかえて丸くなると、涙がこぼれているのに気づいて顔を伏せる。
 土浦は、気に入らない相手にたいしては冷たいが、基本的には世話焼きで面倒見がいい。だからはっきりと拒絶も示せず、うろたえてばかりいた笙子を放ってはおけなかっただけに違いなかった。土浦にしてみれば危なっかしくてたまらないから、仕方ないと手を差し伸べてくれていただけなのだ。クリスマスコンサートで告白をしてくれたのも気の迷いだったのに、笙子がそのつもりだから、優しい土浦は今になって別れを告げることもできないでいるのだ。そうでなければ、どうして自分などが土浦の恋人になれるというのだろう。相思相愛になれるなんて考えてもいなかったのに、目の前に餌を撒かれて簡単に罠にかかってしまった。
(馬鹿だなぁ、私……)
 初恋は実らないと覚悟していたのに、いつのまに思い上がっていたのだろう。
 群れのなかにいなければ安心できない。自分ひとりで何かを決断することもできない。おどおどとして、いつも人の顔色をうかがっているばかりの自分は、まるで草食動物だ。ただひとりで真っ直ぐに立って己を誇示できる土浦とは違うのだ。羨みこそすれ、近寄ることなんてできない存在だったのに、獅子は近づいても笙子を邪険にしなかったから、勘違いをしてしまった。テリトリーのなかに入れてくれたのだと思い違いをしてしまった。住む世界も考えかたもあまりに違うのに、認めてくれたのだと壮大な誤解をしてしまったのだ。
 あとをついて歩くことしかできない笙子は、どれほど土浦の邪魔になっていたことだろう。そんなこともわからないでとなりにいたけれど、土浦にしてみれば迷惑でしかなかったのだ。自分の不甲斐なさと悲しみに、涙が止まらない。ごめんなさい、と笙子は小さく呟きながら泣き続けた。そして結局、午後の授業のチャイムが鳴っても、泣き止むことはできなかった。
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2010.12.29‖offline
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