「おー、うまくなったな。お前さん」
ぱちぱちと一人分の拍手が頭上から降ってきた。
屋上の給水塔の影にいたその人が、いつの間にやら手すりに身体を預けている。
少し驚いて、けれどすぐに嬉しくなった。
「それはそうですよ」
ヴァイオリンを構える。
「これは聞かせたい人がいて、弾いてるんです。下手なまま聞かせられないでしょ?」
あなたに、とは言わない。言えない。
でも、だから弓を引く。
奏でるのは、愛のあいさつ。
精一杯の想いを音に乗せる。
教えてくれたのは、あなた。
聞かせたい人がいて、聞いてくれる人がいて。
まだ、言葉にはできないけど。
それでも、想いはここにある。
「ねえ先生」
「ん?」
銜え煙草のまま、その人は応える。
「先生は、どうやって伝えてくれるんですか?」
笑って尋ねれば、困ったようにその人は煙を吐き出した。
手段は言葉だけじゃないから、教えてください。
先生は、どう思っているんですか?
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2007.04.04‖コルダ:金澤×日野