「冬海」
先輩の顔がいきなり近い。
身体を壁に押しつけられて、逃げ場がない。
ここは学校で、しかも廊下で。
誰が来るかもわからないのに、身をかがめて覗きこまれる。
先輩の右腕は、私の頭の上に。
先輩の左腕は、私の肩を押さえて。
先輩の大きな身体は、私の身体をすっぽりと覆い隠すようにそこにあって。
頬が熱くなって、耳が焼けそうで。恥ずかしくて俯いた。
「………あ、あの、土浦せんぱ……」
「黙れよ」
顎が掴まれる。
引き上げられて、いつもと同じように先輩を見上げる。
そう、目線はいつも上。
先輩と私の身長差はだいぶあって、背伸びをしても全然足りない。
そこにあるのは真剣な、顔。
「……………!」
顔を寄せられて、息がかかる。
金縛りにあったように動けない。
へなへなになって座り込んだ私に、仕方ないなと先輩が手を差し伸べてくれる。
けれど、それすら掴むこともできないくらい、頭の中がグルグルしている。
今、何を、されたの?
「そんなお前もかわいいけどな」
苦笑される。
春にはしかめっ面ばかりだった先輩の顔が、実はこんなに優しく綻ぶのだと、秋になってようやく知った。
「慣れてもらわないと困るんだが」
「………ッ! 無理、です…!」
へたりこんだまま息も絶え絶えに叫んだ。
あなたの近くにいると苦しくて、切なくて、でも幸せで、嬉しくて。
今までの自分には、信じられないような感情の波。
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2007.04.04‖コルダ:土浦×冬海