その笑顔は見慣れたものだった。この人はいつも笑顔だ、と望美は思い返す。
そして、その笑顔が痛いと思った。
貼りつけられた仮面のような笑顔に指を伸ばすと、びくりと震えて距離を取られた。
望美は景時を見上げる。
「景時さん、逃げないで」
何も、何も。
どれひとつとして、教えてはくれなかった。
頼朝の考えも、鎌倉の意向も、そして景時自身の想いも。
それでも、景時を想う気持ちは止められなくて。
「逃げないで」
「望美、ちゃん…」
かすれたような声。いつもと変わらない笑顔。
この笑顔の下で、この人は何度泣いたのだろうかと、望美は胸を詰まらせる。
「もう、いいんです。景時さん。もう、いいの」
手を伸ばす。その首を引き寄せて、髪を撫でる。
一瞬の後、大きな手が望美の背を強く抱いた。
視界にはない景時の顔が、痛みに歪んでいればいいと望美は目を閉じた。
悩みもつらさも、一人きりで抱え込んで、そして苦しんで。
それを思うととても苦しい。気づけなかった自分の無能さが悔しい。
けれど、そんな優しい人だから。
「……好きです」
こんなにも好きなのだ、と望美は思った。
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2007.12.14‖その他