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2017.10.23‖
2011年 バレンタイン



「あッ、あの、……、あの、土浦先輩……!」
「ん?」
 それは放課後の練習を終えて、後片付けをしている最中だった。必死な様子の冬海に呼ばれ、土浦はピアノの鍵盤を拭いている手を止めて顔だけで振り向いた。
 土浦と冬海がつきあいはじめたのは、去年のクリスマスのことだ。それで今日も、ふたりきりでアンサンブルの練習をしていたのである。
 2月14日。世の中はバレンタインに浮かれている。土浦も例外ではなかった。恋人がいる今年のバレンタインは、毎年やってきていたそれとはわけが違う。イベントごとなど今まで興味もなかったというのに、たったひとりができるだけでこんなに認識が変わるものかと自分でも変化に驚いていた。
 上擦った声で土浦を呼んだ冬海は、耳まで真っ赤に染めてふるふると小さく震えている。その手には、深緑色の紙袋が握られていて、土浦は期待しながら身体を向き合わせた。
「今日は、その……、バレンタインなので。えと……」
 ことばをつまらせ、視線をさまよわせ、冬海はたえきれないように顔を伏せた。それと同時に両手で持っていた紙袋を、ばっと勢いよく差し出してくる。
「う、受け取ってください…!」
 普段の冬海からは考えられない行動力だ。バレンタインという口実があるのも、ふたりきりという状況であるのも功を奏したのだろう。震える声で、それでもはっきりと伝えてくれる冬海に、土浦の顔に笑みが広がる。
 冬海はおとなしい外見のイメージを覆すことなく、内面も引っ込み思案で控えめだ。さらに言えば自分に自信がない。だから自分の意思を、はっきりとことばに乗せて伝えてくれるのは、非常にめずらしいことだった。土浦が冬海に抱く不満のほとんどは、冬海が何を考えているのかわからない、というところに集約されるので、こうやって自分のことばでしっかりと伝えてくれることがとても嬉しかったのだ。
「サンキュな」
 差し出してくる手から紙袋を受け取って、土浦はくしゃりと冬海の髪を撫でた。力の入っていた肩がほっとしたように降りて、強張っていた表情もやわらぐ。
 そんな冬海を横目に、土浦は紙袋から手探りで包みを取り出した。手のひらにおさまるサイズの箱は、深緑色の包装紙に包まれ、黒に近い茶色のオーガンジーリボンで丁寧にラッピングしてある。どう見ても既製品ではない。
「お前が作ったのか?」
「は、はい。あの、お口に合うかどうかは、わからないんですけど……」
 見上げてたずねれば、冬海はおどおどと心配そうにうなずいた。ふうん、と気のないように返事をしながら、内心土浦は冬海の手作りか、と顔がにやけるのを必死でおさえ、箱にかかったリボンをほどいた。
 自分自身が料理を作り、食べてもらったとき、できれば味の感想をもらいたいと土浦は思っている。だから冬海にたいしてもそうするつもりだった。何ごとにも丁寧で慎重な冬海のことだ。きっとこのチョコレートもさぞかしうまくできているのだろうと包装紙を丁寧に開き、ふたを開ける。すると、そこにはきれいな丸のかたちのチョコレートが整列していた。見た目は完璧だ。
「うまそうじゃないか」
「そ…そうでしょうか?」
 なお心配そうな冬海の前で、その中のひとつをつまんでひょいと口に入れる。途端にチョコレートとの甘いかおりと、ふわりとコーヒーの苦みが広がった。やわらかでなめらかで口溶けもよく、甘いものがさほど得意ではない土浦でも思わず次に手を出したくなる出来映えだ。もごもごと口を動かしていると、冬海はうかがうような目でこちらをみている。
「これ、本当にうまいぜ」
 口のなかを空にして笑いながら伝えると、冬海はやっと顔をほころばせた。
「あ……、ありがとうございます。よかった……」
 ほっと息をはきだして、にこり、と微笑む顔が本当にかわいくて、土浦は思わず視線を床に逸らせた。
 ときおり、冬海はこうやって無防備な顔を見せて、土浦を困らせる。初心で奥手で控えめで引っ込み思案。だから土浦は冬海を怖がらせないように、いろいろと我慢しているのである。たとえばこういうとき、抱きしめたいとか、キスしたいとかいった欲望を。
 自分を落ち着けるために深呼吸をした土浦の視線の先に、チョコレートの入っていた紙袋があった。そのなかにあるものを見つけて、土浦は目をまたたかせる。手をのばしてつかみとると、それは淡いピンク色をした封筒だった。
「……これは?」
 土浦がそれを袋からとりだして目の前にかざすと、冬海はさっと頬を紅潮させた。
「あ! あ、あの……、あの、そ、それは、できれば、あの……、お家で、開けてください……」
 しどろもどろになる冬海に、土浦は首をかしげる。
「手紙?」
「えと、えと……」
 土浦がなおも不思議そうに問いかけるので、冬海は恥ずかしそうにうつむいて、ぎゅっとスカートを握りしめた。ふるふるとその肩が震えている。土浦はじっと見つめながら冬海の答えを待った。
 この待つという姿勢は、冬海と話をするうえで非常に重要だ。冬海は自分の意見をことばにするのが、とても苦手なのだ。そしてそれを聞きたいのは土浦のわがままだ。口べたな冬海をしゃべらせるには、こうするしかない。
 しばらくためらってから、冬海はぽつりと言った。髪からのぞいた耳が真っ赤になっている。
「………わ、私、土浦先輩に、お伝えしたいことがあって……。でも、はずかしくて、いつも上手に言えないから、手紙にしたんです。手紙なら、今みたいに、先輩をお待たせすることもないかなって。私の言いたいこと、上手に伝わるかなって。だから……」
「……あのさ、冬海?」
「は、はい!」
 ふう、と大きく息を吐き出した土浦に、冬海はビシ、と音がしそうな勢いで背筋をのばした。それにくつくつと笑ってみせて、土浦は意地が悪いと自覚しつつたずねた。
「これは俺あてのラブレターってことでいいんだな?」
「…………ッ!」
「だから、今、読むなっていうんだろう?」
 答えられず息をのんで、肌という肌を真っ赤に染めた冬海を土浦は抱きしめた。
 冬海に限って、手作りのチョコレートまで作って、別れ話や不満を手紙にするとは思えない。
 それならば、と帰結した結論に土浦は相好を崩した。
「……俺も、お前が好きだよ。離す気なんかないから、覚悟しとけよ?」
 熱をもった耳元に低く告げると、抱きしめた頭が小さく頷いて、土浦は抱きしめる腕に力をこめた。



2011.02.10up
ラブレターの中身を土浦が読み上げるという羞恥プレイ展開も考えたのですが、冬海ちゃんがいたたまれないのでやめました。
土浦はきっとこの手紙を額縁に入れて飾りたいところでしょうが、誰かに見られるのも嫌で机のなかに大事に大事にしまっておくのだと思います。
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