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2024.04.16‖
※コルダ3時間軸で土冬妄想。
神曲のペーパーに加筆修正。



「それじゃあ、もう一回」
 笙子はその聞こえるはずのない声に驚き、弾かれたようにそちらを向いた。この声の持ち主がここにいるはずがないと知っているのに、思わず息を飲んだ。トランペット、トロンボーン、チューバ、ホルン。金管楽器の音が続いて聞こえてきて、引き寄せられるように足が向く。
 笙子が星奏学院を卒業して六年。この海辺の公園に来たのも、随分久しぶりのことだった。
 海は以前と変わらず笙子を迎えた。それに悲しくなったのは、隣にいてくれていた人の存在を強く思い出してしまったからだ。そもそも、今日こうしてここへやってきたのも、夢に彼を見て思い出してしまったからだ。
 指揮者になる夢を追って、日本を飛び出していった彼と離れて半年。
 あの日に告げられた言葉は、笙子を重く暗い絶望のふちをさまよわせている。そのときの声と、今聞こえてきた声は非常によく似ていた。
 そんなはずはない、と思いつつも探し当てたさきには、見慣れぬ制服を着た高校生が五人。笙子の耳が正しく捕らえたように金管楽器を構え、曲を奏でている。そのさまをぼうっと見遣って、やっぱりいないと笙子は小さく息を吐いた。
 高い背。がっしりとした肩。笙子のまぶたに焼きついたあの影は、遠くからだって見分けがつく。探している人がいない事実と、それを知りながらも探してしまう自分に肩を落とした。
 それにしても、個性の強い金管の音がよくまとまっている。現役のオーケストラ奏者である冬海は、その実力に背筋を震わせる。空耳だったかもしれないけれど、この曲を聞けただけでもよかったと笙子は微笑みを浮かべた。
 そして曲は終わり、音が途切れ、口から楽器が離れ、彼が、口を開いた。
「火積、少しずれたね」
 それは、優等整然とした少年だった。
 息を忘れる。
 鼓動が止まる。
 めまいがした。
 笙子は目を丸くして、彼を凝視した。
 声は、あまりに笙子の想い人のものに似ていて、胸を締めつける。
 胸の前でぎゅっと手を握りしめて、笙子は立ち尽くした。
 おそらく演奏についての話し合いをしている中、長身の少年がふとこちらを見た。そして、びっくりしたように身体を跳ねさせる。
「お、おねえさん? 大丈夫ですか?」
 おそるおそるといった体で近寄ってきたのに瞬きを繰り返すと、視界がぼけているのがわかった。
「あ………」
 頬を涙が伝っている。自分が泣いているのだと気づいたときには、問題の少年はハンカチを差し出していた。


「ごめんなさい。驚かせてしまって……」
 差し出されたハンカチを断って、自分のハンカチで涙を拭いながら笙子は謝罪をした。
 似ている声を聞いただけで泣いてしまうほど追いつめられていたのだと思い知る。半年前、別れを告げられてから、何気なく振る舞おうとしてきたけれど、彼のいない生活は底のないグラスのようなものだ。満ちることはない。
「本当に大丈夫ですか?」
 件の少年にたずねられて、また涙が浮かぶ。優しげな響きは彼にはないものだけど、声質自体が似ているのだ。けれど、ここでまた泣いてしまうわけにはいかない、と笙子は涙をこらえた。
「ええ。ただ、あなたの声が、知っている人に、よく似ていて……」
 告げる声がふるえた。
 今日とは真逆の、寒い寒いあの日。
『俺を、待たなくていい』
 彼の告げた言葉とともに、面影を思い出す。低く、しぼりだすような声。苦しそうな顔。つらそうな響き。苦しみ抜いた末の言葉に、笙子は何も言えなかった。
 ふるえる息を吐き出すと、最初に笙子を見つけた長身の少年が首を傾げながら尋ねてくる。
「それって、おねえさんの恋人?」
 デリカシーのかけらもない問いに、大柄な強面の少年が拳を落とした。
「黙ってろ、水嶋」
「……ッ! 火積先輩痛い〜!」
「お前が無神経だからだろうが」
 火積と呼ばれた少年の鋭い眼光ににらまれて、殴られた少年はヒィっと怯えた声を発した。見事な早さで、まだ心配そうにこちらをうかがう少年の背に隠れた。
「部長〜、助けてくださいよ〜」
「お前が悪いよ、水嶋」
 静かな声で戒め、申し訳ありません、と折り目正しくこちらに頭を下げてくる。仲のよさそうな様子に、笙子の頬に笑みが戻った。
「いいえ、こちらこそ驚かせてしまって、本当にごめんなさい。泣いてしまうなんて、自分でも思っていなかったから……」
 目を伏せると、彼と同じ声は告げた。
「身の憂きを いはばはしたになりぬべし 思へば胸のくだけのみする、という歌があります。けれど、僕は苦しみは分かち合って昇華することができると思います。つらいことも苦しいことも、僕は仲間と一緒だったから乗り越えられた。あなたも、苦しみを分かち合うことができる人がいるのならば、話してみる価値はあるのではないでしょうか」


 自室で、昼の少年の声を思い出す。
 苦しいのだと、言ってもいいだろうか。今ごろになってでも、告げていいものだろうか。
 深夜、ベッドにも入らずに握りしめた携帯をじっと見る。
 別れを告げた土浦は、ひどく苦しそうだった。別れたくはないと思ってくれていたのだろうか。あそこで嫌だとすがりつけば、違う未来があったのだろうか。
 叶いもしない仮定に、笙子は小さく首を振る。
 土浦にとって海外へ渡ることは必要だった。そこへ自分を連れていけるかといえば否だ。土浦は自分の勉強に没頭したいだろう。その足枷にはなりたくなかった。着いていかなかったことは、自分でも正解だと思う。
 けれど、そのために別れる必要はあったのか。
 まだ、土浦が好きだ。
 別れから半年も経って、彼を何度思い出しただろうか。
 似ている声を耳にしただけで涙を流してしまうほどに別れはつらく、苦しい。
 できることなら、近くにいたい。
 近くにいることが叶わなくても、土浦と繋がっていたい。待っていたい。
 それは笙子のわがままだ。告げることは、土浦の重しになるかもしれない。
 けれど、笙子は携帯のメモリーを呼び出して、思い切って通話ボタンを押した。
 会えないことよりも、話せないことよりも、自分たちの間に何のしがらみもないことが、悲しくて痛い。
 押し当てた受話器の向こうで数回のコール音が途切れ、電話の向こうから声が聞こえた。それは聞きたかった声そのもので、笙子はこみ上げてくる嗚咽を飲みこんだ。



2010.10.03up
悲恋かな。悲恋ぽいですかね?
中の人が一緒だよ!というのと、3のモブの会話から作った話です。

こっから考察↓↓↓
海外に行くと決めたときの土浦の心情はいかばかりか、と思います。
私のなかには、冬海ちゃんは連れてけないと考えるんじゃないかなっていうのが最初にありました。
不慣れな土地に、不安定な経済状況で、しあわせにできると断言できないままでは、土浦は冬海ちゃんを連れていかない。
しかも、それまで挫折をほとんどせずにきているのに、指揮に関しては大器晩成型(公式設定集にある)なので、うまくいってない。
それに加えて月森や志水は成功しているから、自分に対する失望とか焦りとかが、多分にあったと思います。
火原や柚木や加地も、ほかの道を見つけて進んでいる。でも自分は進めない。
苦しくても、土浦はそれを冬海ちゃんにぶつけることはできないし、先人たちの助けは借りても自分ひとりで頑張ろうとするだろう。
だからこそ未来が見えない。成功する見込みがほとんどない。
そうなったら、土浦は冬海ちゃんを待たせることすら、悪いように考えてしまうのではないか。
だから、今回は土浦に「待たなくていい」と言わせました。冬海ちゃんもつらかっただろうけど、土浦も苦しかったろうと思います。
ただ土浦の駄目なところは、その苦渋の決断を自分ひとりで決めてしまうところだとも思います。
冬海ちゃんに相談すれば、別れを切り出す以外の方法も見つかったはずなのに、それをしないところが本当に駄目で愛しいです。
そんなこんなで別れているふたりで8年後でした。

このあとはきっとうまくいくよ。冬海ちゃんに泣かれて懇願されて、土浦はほだされる。てゆーか、そもそも土浦はうまくいったら迎えにいこうと考えてるはずなので(ただ、それがいつになるかわかんないから「待つな」と言った)、待ってくれると言うなら、待ちたいと言ってくれるなら待っててもらうんじゃないですかね。そうだといいな。
これとは逆で、待っててもらうこと前提で必死に頑張る土浦とかも考えたわけですが、土浦は釣った魚に餌をやらない男なので冬海ちゃん心配になっちゃうだろうなーという方向で妄想は落ち着きました。
結局あれです。土浦は女の子の扱いが非常に下手です。そういうところがいいですけどね!
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