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2024.03.29‖
「金誕。」さま提出作品



 想いを確認しあって、そろそろ一年になる。
 学内コンクールの最終日。屋上で奏でた音を頼りに駆け上がってくれた人は、まだ香穂子にとっては教師でしかなかった。しかし、想いを確認しあったという面に関していえば、両想いといっても差し支えない。ただ、まだその関係にはなれないというだけだ。お互いの立場が立場だし、それは香穂子も重々承知している。
 けれど、理解と感情とは別だ。音楽準備室の机の上にそれを見つけて、香穂子は思わず愚痴めいたことをぽろりと零してしまった。しまった、と思ったときには後の祭りだ。
「………先生、プレゼント受け取ったんだ」
 香穂子の来訪をいつものように迎えた金澤は、その言葉に器用に眉を上げてみせた。
「そりゃ、くれるってものはもらうさ」
 教師の誕生日にプレゼント。
 バレンタインとは、また別の意味を持つ行為だ。
 そんなことをする行動理由など、たったひとつしかない。
 お礼だとか憐れみだとか、理由はいくつもつけられるけれど、異性の、しかも教師にプレゼントなど、よっぽどの好意がなければしないだろう。おそらくそこに根差す感情ををわかった上で、プレセントを受け取っている金澤に香穂子は眉根を寄せる。
 手をぎゅっと握り締めて、教室の鞄の中にあるプレゼントを思った。それは金澤に差し出して、受け取りを断られたものだ。
「私のは、受け取らないって、言ったじゃないですか」
 ガリガリと頭をかいて金澤は大きく息を吐く。
「………お前さんのは、違うだろ」
「どう、違うんですか?」
 同じ生徒からのプレゼントだ。低く香穂子が問えば、金澤は視線を逸らした。
 関係を変えることはできないのだと、金澤は言った。言葉も行為も封じて、想いだけを募らせていく状況は苦しい。それでもあのとき、屋上の扉が開いて、金澤が自分を見てくれた瞬間を信じているから。だから、もどかしい関係を我慢することができた。好きだという気持ちをヴァイオリンに乗せることだけで満足していたのだ。
 それなのに。
 一年にたった一度。
 ようやく手に入れた情報に、無邪気さを装って差し出したプレゼントは拒否された。けれど他の生徒も同じ扱いなら仕方ないと、苦しいのも悲しいのも押さえつけた。
 なのに。
 机の上のプレゼント。金澤は香穂子のプレゼントだけを受け取らなかった。胸が押しつぶされそうに痛い。
 気づいたときには頬を涙が伝っていて、けれど香穂子は拭うことすらしなかった。そのまま金澤を睨みつけると、その視線に負けたように金澤は眉を下げた。
「……泣くなよ」
「先生、が……」
 金澤が悪い、と香穂子は思う。そうでしかありえない。つらいのも苦しいのも我慢して、一方的に過ぎる方法で想いを伝えて。
 たった一度きりの想いの邂逅。それを信じる以外の方法は、香穂子にはない。だからこそ、わずかでいい、金澤からの見返りを期待していた。ほんの少しでよかった。金澤が香穂子の気持ちを忘れていない、受け入れる準備をしてくれていると、少しでもいいから知りたかったのだ。今日ならただ、プレゼントを受け取ってくれるだけで、満足したというのに。
 金澤は自分の椅子から立ち上がりもしない。近寄りたいと思っている香穂子と、近づかないと決めている金澤との違いを見せつけられたようで、香穂子の足も準備室のドアの前で貼りついたように動かない。
「だ…っ、て」
 それでも今まで溜めていた鬱憤を晴らすかのように、言葉は止まらない。
 ひく、と喉が引きつる。
「だって、不安なんです。先生は、あのとき来てくれたけど、ずっと信じてていいの?」
 金澤を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。香穂子も同じように、ぐしゃりと顔を歪めた。部屋の中の空気は重く、息苦しい。けれど、必死で香穂子は息を継ぐ。
「先生が、まだあのときと同じ気持ちだなんて、そんなに都合よく考えられない…」
「日野………」
 とうとう困ったように金澤が香穂子を呼んだが、一度口をついた想いは止められなかった。
「先生は先生で、私は生徒だってわかってるけど、嫌なんです!」
 嫌われるのが怖かった。だから今までいい生徒のフリをしてきた。でも、もう限界だ。金澤が好きで、それだけで、もうどうしたらいいのかわからない。
 好意を示してはいけないというのは、もっともだ。立場を考えれば自重しなくてはいけないとわかっている。わかっていても、本当は言葉も行為も心も、金澤の何もかもがほしい。そう願ってやまないのに、そんな香穂子の思いを金澤は否定する。
 そこにあるのは大人の余裕か、それとも香穂子への無関心なのか。
 香穂子にはわからないから、確かめたいと思う。しかし、それすら金澤は拒絶する。
「嫌………」
 呻くように声が漏れた。香穂子は俯いて、懸命に涙を拭う。
 沈黙はどれほどか。一分か十分か、それとも数十秒だっただろうか。長くも短くも感じる時間に、大きく金澤の溜息が落ちた。
「……なら、止めるか?」
 そんな金澤の声に、香穂子は驚いて顔を上げる。
「信じられないなら、全部をゼロにするしかないだろ。俺がお前さんの教師だってのは、あと一年は変わらない。お前さんが俺の生徒だってこともな。だから、今はお前さんが望むようにはなれない」
 完全な否定。何を言われたのか、最初はわからなかった。しかし、言葉はじりじりと脳内に入っていって、理解したくもないのに理解して、香穂子はその場で凍りついた。目を瞠り、淡々とそう口にする金澤を息を詰めて見る。
「俺たちの間にあるのは、ある種の信用関係だけで、今はそれ以上にはならない。なりたいと思っても、それは無理だ。わかるな? 不可能なんだよ。どちらかが学院を出るまでは、俺たちはこのままの関係でいるしかないんだ」
 告げられて、香穂子は涙が止まっていることに気づいた。人間、あまりにショックなことがあると、思考と同時にすべての機能が止まるらしい。詰めていた息を吐きながら、香穂子は金澤を見上げた。
「………………、頼むから、気づけよ」
 重々しい息にまぎれて、金澤が苦しそうに言葉を吐いた。
 見上げた金澤の顔はやはり歪んでいて、香穂子にはそれが苛立ちなのか苦しみなのか、判別できなかった。
「……俺がほしいもんを受け取ったら、やっぱりそれは特別だろう? 特別じゃ、駄目なんだよ。お前さんは、他の生徒と一緒じゃなきゃ駄目なんだよ。だから、頼むから察してくれ」
 言葉の意味が、じわじわと染みる。
 本当は、受け取りたいと思っていてくれたのだろうか。
 それでも、他と同列に扱わなくてはいけないから、金澤は自重したのか。
「…………特別に、なりますか…?」
 問う声がかすれた。
 香穂子は涙に濡れたままの目を、金澤に向ける。ひたと顔を見つめると、居心地が悪そうに金澤は椅子から立ち上がった。窓枠に背を預けて、長い足を組む。
「……なっちまうんだよ。だから、駄目だ」
 ひどく言いづらそうに金澤は目を伏せた。
「だから泣くなよ。な?」
 目を上げてこちらを見た金澤が、あまりに困った顔で笑うので、香穂子もつられて笑顔を見せた。





金澤先生が愛されてる企画で素敵だなぁと思いました。素敵っていうか、嬉しかった。
ホント素晴らしい企画だったのに、この微妙に暗めな作品。
いや、最後はあれですけどね。話の入りも途中も暗い…。どうにかしたいものです。
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