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2024.04.26‖
蛇足あり



「え…えと、これ、なんですけど」
 笙子はドキドキしながら、広げた教科書を指差した。
 教科は数学。わからない問題があると告げた笙子に、数学なら得意だから教えてやる、と恋人である土浦は言った。定期テストは間近で、そんな時期に土浦の時間を使ってしまうのは気が引けたけれど、そんなことで駄目になるような勉強の仕方はしていないと逆に怒られた。だから、笙子は思い切って土浦との勉強会をすることにしたのだ。
 場所は学校の図書室である。笙子と土浦が付き合いだした、というニュースは、驚くほどの早さで校内中を駆け巡った。それは互いに学内コンクール参加者だったからなのか、それともほかの要因があるのか、それはわからない。それでも、二人でいれば好奇の目にさらされることも少なくない。それを鬱陶しいと思っているらしい土浦は、音楽ブースへと足を運んだ。ブースの間には仕切りがあり、個室のようになっているからだ。
 しかし、だからといって、この至近距離はないのではないかと思う。先ほどから心臓が激しく脈打っていて、教科書に置いた指も震えている。
 土浦は、椅子に座る笙子の背後から覆いかぶさるように、机に手をついている。土浦の顔は笙子の顔の真横にあり、声も息も熱も近い。
「これか……」
 すい、と土浦の長い指が動いて、教科書の表面を撫でる。指先は問題文を追いかけて、その後に笙子のノートの文字をなぞっていく。それだけでも、笙子の心臓はドキドキを繰り返した。
「ここまで解けてりゃ、できそうなもんだけど」
「え…えと、途中までは解けるんですけど、どうしてもそこから先に進まなくて…」
 笙子の言葉を聞き、ノートを取り上げた土浦は、それを眺めて唸った。
「………ああ、わかった。ここの公式が違うんだ」
 数式を見つめていた土浦は、そう呟くと笙子のノートを机に置き直し、さらさらとペンを滑らせる。笙子の間違えた部分に修正点を、さらに簡単な説明を書き加えていく。それを見つめながら、笙子はやはり土浦は頼りになる、と頬を染めた。こんなにできる人が隣にいてくれる幸せに、頬が緩む。
「……ここでこうだから…、こっから先はわかるよな?」
 そう聞かれて、笙子は我に返った。土浦のきれいな手と動きに見とれて、全然話を聞いていなかったのだ。
「え、あ…! えと……」
「何ぼーっとしてるんだよ? いいか、もう一回説明するから、今度はちゃんと聞けよ?」
 今度は書き終えてある説明をたどりながら、土浦は笙子のすぐ耳元で説明を始めた。それを一生懸命聞こうとするのだが、時折土浦の息が耳にかかって集中できない。とうとう笙子がびくりと身体を揺らすと、土浦は一瞬何だと目を瞠るが、事態を理解して意地の悪い笑みをその顔に浮かべた。そして、笙子の赤くなった耳元に近づいて、低く囁くように問う。
「これで、わかったか?」
「………ッ!」
 顔だけでなく、耳も首も真っ赤にして笙子が息を飲めば、土浦は堪えきれなくなったように笑い声を漏らした。
「せ、先輩…!」
 笙子が抗議の声を上げると、土浦はまだ笑いを残した声で謝罪する。
「悪い悪い。でも、お前も悪いんだぜ?」
「…………」
 反論もできずに俯き、ペンを握りしめる笙子の手に自分のそれを重ねて、土浦はまた耳元で囁く。
「で? 今度はわかったのか?」
 実際は、説明などほとんど頭に入っていなかったのだが、これ以上こんな状況でからかわれても心臓が持たない。笙子は必死で首を縦に振る。それを見た土浦は、密着させていた身体を起こすと当然のように言った。
「それじゃあ、解けなかったらお仕置きな」
「え…っ?」
 思わず振り仰いだ土浦は、にやりと意地悪く笑って、言葉を続けた。
「できたらご褒美」
 笙子は、その言葉にぱちりと大きく瞬きをする。土浦が、こうして意地の悪い表情を浮かべるときには、彼氏彼女という関係でなくてはできないようなことをするのだと、少ない経験からわかっていた。つまり、どちらにしても土浦に何かをされる、ということである。その解答を導きだして、笙子は音が立つのではないかというほど急激に顔を上気させた。
「………えっ、えと、あ、あの……、その……!」
 くしゃりと笙子の髪を撫で、土浦は問題を指し示した。
「…なんてな。ほら、解いてみろよ。わからないなら教えてやるから」
「……え?」
 笙子が目を丸くして土浦を見上げると、土浦はまた意地悪く笑う。
「最初から、そういう約束だろ。……それとも、してほしいのか?」
 そう言うと、また笙子を背後から覆い隠すように土浦は体勢を変えた。そして、力なく首を横に振る笙子に苦笑しながら、問題の箇所を指し示す。
「ここが解ければ先に進めるから。ほら、解いてみろ」
「は、はい…」
 未だ胸はドキドキとうるさく高鳴るけれど、笙子はペンを持ち直し、問題に取り組むことにしたのであった。





キャラクターが、変なような気がするのですが、何度修正しても駄目なので、このまま上げます。これでも、まだマシになったんだ。……いったい何が悪いのか。
でも、シチュエーションは萌えでした。楽しく書きました。
リクエストありがとうございました!













































「………解けました」
 ふう、と息を吐いて、笙子は土浦を振り向いた。
 問題に取りかかりはじめれば、土浦は悪ふざけが嘘のように丁寧に件の問題を教えてくれた。それだけではなく、その応用問題まで解けてしまったのだ。嬉しくて、笙子は満面の笑みを見せる。
「お、これならテストも大丈夫だろ」
 背後から横の席に移動した土浦が、添削を終えて赤で大きく丸を書いた。そして、いい子いい子をするように、大きな手で笙子の頭を撫でる。優しい仕草に、笙子は頬を染める。
「あ、あの、土浦先輩、ありがとうございました」
「いや、こっちこそいい復習になった」
 ありがとな、と告げる土浦がにこりと笑うので、笙子はぎゅっと胸の前で両手を握りしめた。
「え、………えと、その、先輩…?」
「何だ?」
 赤ペンをしまっていた土浦が振り向いた。笙子は決心が鈍る前に、と思い切って身体を乗り出す。
 ちゅ、と音が鳴ったのは、故意ではない。
 しかし、触れたのが頬であったのは、故意である。唇に触れる勇気はなかったのだ。
 驚きに満ちた土浦の目が、大きく見開かれた。
「あの………、本当に、本当に、ありがとうございました」
「……っ、おま…」
「お礼、です」
 かすれた土浦の声を遮って、笙子は上気した顔を隠すように俯く。
「畜生…!」
 がしがしと頭を乱暴に掻いた土浦が、そんな笙子を胸の中へ抱き込んだ。高鳴る鼓動が重なるのを感じて、笙子はそっと目を閉じた。





冬海ちゃんも頑張ってみたよ! の蛇足でした。お粗末様でしたー。
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