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2024.03.29‖
ツイッターでつぶやいた8年後妄想
反応もらえたから書いてみた



「やっぱり今日は疲れたな」
 自身も疲れた顔で、土浦はネクタイを緩めながら言った。外したタイを備えつけになっているソファにぽいっと放って、次いでスーツの上着も脱ぎ捨てる。
 そんないつもどおりの土浦の様子に笑顔を返して、笙子は疲れた身体を反対側のソファに埋めた。
「そうですね。お話には聞いていましたけど、やっぱり疲れました」
 でも、と小さくつけ加えて、笙子は頬を赤らめはにかんだ。
「今日は特別ですから」
「ああ、そうだな」
 土浦は、ひどく嬉しそうな、しあわせそうな、優しい顔でこちらを見た。そのまなざしに、どきりと胸が大きく跳ねて、土浦の顔を直視していることができなくなる。わずかにうつむくと、自分の姿が目にうつった。普段は着ない、胸元が大きく開いたハイウエストの白いAラインドレス。レースがたくさん重ねられていて、ロマンティックな印象だ。ひらひらとお姫さまのようなドレスは、今日の主役である笙子を飾るのにふさわしかった。
 そして、このドレスを選ぶときに一緒にいた土浦とは、これからずっと一緒にいることになる。
 今日は土浦と笙子との結婚式だった。
 ドレスアップした姿を、披露宴のあいだも、二次会でも、たくさんの写真に撮られた。どれもきっと、しあわせな顔をしているのに違いない、と笙子は思う。今だって、信じられないくらいにしあわせだ。二次会を終えて、こうしてホテルのスイートルームに足を踏み入れても、まだ夢のなかのできごとのようで、気持ちがふわふわしている。
 部屋のなかにあるキングサイズのダブルベッドに腰掛けて、土浦はカフスを外しながら穏やかに笑う。
「それにしても、俺とお前がここでこうしているなんて不思議だよな」
 第一印象はお互いよくなかったよな、と笑い混じりに口にする土浦に、笙子は小さくうなずく。
「そうですね。……でも、あの、私、その……、今、一緒にいてくれるのが先輩で、すごく、嬉しいです」
 心臓がどくどくと脈打って飛び出してしまいそうなのをこらえながら告げると、土浦は一瞬びっくりしたような顔をして、大きく息をはいた。眉をへの字にして、苦笑しながら笙子を手招く。
 手招きの意味を悟って、笙子は肌を真っ赤に染めながら土浦の隣りに位置を変えた。寄り添うように身体をあずけると、大きな手が肩を抱く。期待に身体が跳ねると、土浦は笙子の顔をのぞきこんで触れ合うだけのキスをした。
「………今日はもう寝るか。明日から新婚旅行だしな」
 しかし予想外の土浦の優しい言葉に、笙子は驚いて目を瞠った。
「あ……、えと、寝るん、ですか?」
「疲れてるだろ?」
 当然のように土浦は言う。
「そ…、それは、そうです、けど……」
「それに今日じゃなくてもできるし」
 違う。笙子はわずかに首を振った。今日でなければいけないのだ。今日は特別だ。結婚式の夜なのだ。同じベッドとはいえ、離れて眠るのはさみしすぎる。今日という日は、今このときにしかない。
「あの、あの……、でも、今日は……しょ、初夜、ですよ…ね……?」
「したいのか?」
 土浦の口もとが,ほんの少し歪んでいるのがわかる。土浦が笙子にいじわるをするときのくせだ。こうなると、土浦は笙子が望んでいる答えかそれ以上を返すまで解放してくれない。困り果てて、笙子はぎゅっと眉を寄せた。
「…………先輩は?」
 結局、こういう気分なのが自分だけではないということが知りたくて尋ね返す。
「先輩は、したく、ないですか?」
 すると器用に片方の眉を上げて、土浦は意地悪く微笑んだ。
「俺の嫁とならしたい」
「え?」
 思いもかけないことを言われて、笙子はまたたいた。
「わ…私、まだ、先輩のお嫁さんじゃ、ないですか……?」
 急に心細くなって、胸元でぎゅっと手を握りしめる。今日、結婚式を挙げた。その前に婚姻届も出した。何よりも、笙子は土浦が好きだ。これからずっと一緒にいたい、とそう思ったから、今日このときがある。土浦はそうではないのか、と恐怖に身体が震える。泣きそうになって見上げると、涙でうるみはじめた目尻を土浦はついばんだ。
「俺のこと、呼んでみたらわかるかもな?」
 土浦の与えてくれたヒントに、笙子は名前を呼ぼうとして思い至った。
「あ……」
 土浦はにこりと笑う。
「え……、えと、…………」
 高校時代に知り合って、それからずっと『土浦先輩』と呼んできた。だから名前で呼ぶのは今がはじめてだ。今まで土浦はそのことを言及しないでいてくれたから安心していた。けれど、今日から笙子も『土浦笙子』となるのだ。それなのに『土浦先輩』と呼ぶのは、たしかにおかしい。
 けれど名前を呼ぶ、とたったそれだけのことにためらい、葛藤している笙子を、土浦は楽しそうに眺めている。
 恥ずかしさに顔を伏せ、笙子は肩を震わせた。
「りょ……、梁太郎せんぱ……」
「だから、先輩じゃなくて」
 土浦がばっさりと断じて、笙子の顎を持ち上げた。ただでさえ早い鼓動が、至近距離にますます早くなる。喉を上下させる笙子に、土浦は強要する。
「ほら、言えって」
「…………………ッ、りょ…うたろう、さん」
「うん?」
 やっとのことで土浦の名前を吐き出した笙子に、土浦はなおも楽しそうに首をかしげる。意地悪な土浦の前で羞恥に悶えながら笙子は尋ねる。
「りょ、梁太郎さんは、もう寝ちゃいますか……?」
 どうにかそう口にした笙子を、土浦は壊れもののように抱きしめた。少しだけアルコールのかおりのする身体に抱かれて、喉が干上がりそうになる。恥ずかしさに肩に額を押し当てると、笙子の細い首筋を土浦の指がなぞる。
「まだ寝ない。それに、お前を寝かせるつもりもないかな」
「………っ」
 ふるり、と身体を震わせた笙子の顔を上げさせて、土浦は深い笑みを見せる。 
「覚悟しろよ? 笙子」
 低く艶めいた声での宣告と、深いキスとで土浦は笙子の問いに答えた。




2011.03.11up
何回呼び方変更イベントを書いてるのかっていうね。
毎回毎回土浦が強要して呼び方が変わりますけれどもね。
そういうふたりが好きなので、仕方がないですよね。
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