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2024.04.20‖

#04

迫る八木沢さん



 彼と恋人同士になるのには、相当の覚悟が必要だった。世間は異端なものに風当たりが強い。でも、一緒にいることを選んだのを、後悔しているわけではなかった。たったひとつ後悔しているとすれば、彼の踏ん切りの悪さを見抜けなかったことにある。
 八木沢雪広は、その身体の下に東金千秋を組みしいて、眉間にしわを刻んだ。
「千秋。いい加減、逃げるのはやめて」
 吐き出す声には、呆れが混じっていたかもしれない。見下ろした東金は、驚きに大きく目を見開いている。
 その様子に、八木沢は深く嘆息した。
 八木沢と東金が「恋人」として付き合うようになったのは、高校を卒業するほんの少し前の話だ。
 それから四年間、さいわいなことに周囲にばれずに関係を続けている。その大きな要因のひとつは、大学生になって八木沢がひとり暮らしをはじめたことにあり、もうひとつは東金自身が普段は大学のある関西にいることだった。
 日常的に一緒にいれば疑わしく見えるかもしれないが、お互いの都合が合うときにしか会えないのである。だから、八木沢の家を――お互いの離れている距離を考えれば頻繁に――訪れている東金を注視するものなどいなかった。おかげで、ふたりは順調に関係を育んでいる。
 だが、八木沢はある一点において、疑問を抱いていた。「恋人」というからには、一緒にいるだけでいいというものではないだろう。お互いが恋しく想い、相思相愛であればこそ、持ちえる欲があるはずだった。
 しかし、東金はそれをちらりとでも、におわせたことはなかった。
 八木沢はこういったことには疎いが、あるときにおかしいのではないかと気づいた。そして実際、飲み会の話の流れで、そういったことを口にしたときには、信じられないと言われたのである。
 八木沢は同世代にくらべれば、我慢強い自覚はあった。けれど、東金は違う。元来、我慢することをよしとはしない。それなのになぜ。八木沢は胸のうちに巣食った疑心を低く吐き出した。
「僕は、君のなに?」
「ユ……、ユキ。とりあえず、降りてくれん?」
「駄目だよ、千秋。逃げるつもりでしょう?」
 答えて、と東金の逃げ道を潰して、八木沢は問うた。
 四年間も恋人でいて、一度も触れてこないというのはどういうことか。
 恥を覚悟で白状すれば、キスすら交わしたことがない。
 八木沢も東金も、もう無邪気な子どもではない。触れたいと思うことが罪であるのなら、この想いは最初から成就させてはいけないものだったのだ。けれど、そのラインはとうに越えている。東金が、自分に抱いている気持ちはなんだ。八木沢の疑心はそこにある。
 ほかと違うからおかしいだとか、積極的に迫りたいとかそういうのではないが、東金の興味がまだ自分にあるのかどうかを知りたかった。
 逆風を受ける覚悟をしたのは、それが東金だからだ。八木沢は東金が自分を好きだと言ってくれて、本当に嬉しかったのだ。東金を大事にしたいと思ったし、愛されたいと願った。
 最初は、男同士でする方法がないのかと思った。下世話な話なので誰に聞くこともできない。しかし世の中の同性愛者が欲を抱えたままのはずがないと、意を決して八木沢は調べたのだ。パソコンに単語を入力すれば、方法はたやすく見つかった。最初は目眩のするような気さえしたが、異性同士でない以上、方法は限られている。画面に表示された情報を読みながら、八木沢はおそらく自分が女役であろうと腹をくくったのだ。はじめから、どちらがと意識していたわけではなかったが、東金と自分の性格を鑑みて心を決めたのだ。
 お互いに積極的ではなかった。そのことに非があるのなら、八木沢も同罪だ。いや、八木沢のほうが非は深いかもしれない。興味が薄いといってしまえばそれまでだが、あまり気にすることはなかったから、東金も手を出しづらかったのかもしれないと反省もした。
 だけど、そうと決めてからは、それとなくアプローチをしたはずだった。身体を近づけてみたり、甘えてみたり、少し恥ずかしいと思うようなこともしたのだ。なのに、東金はことごとく流したばかりか、この期に及んで何もしてこない。
 何もしてこないことに怒りを覚えたのは、東金の覚悟が足りないからだと気づいたからだ。それを意識するようになってから、東金の態度も気になるようになっていた。以前なら絶対に気づかなかっただろう。東金はそれとなく視線をはずしたり、身体をずらしたりしていたのだ。劣情を覚えないように、彼は細心の注意をはらっていた。
 気づいたら、あとはこちらが動くしかないではないか。
 そして、八木沢は東金を押し倒し、今にいたる。
「千秋にとって、僕はなに」
 答えない東金に、八木沢は答えを迫った。
 東金は子どものころと変わらない距離を保ち続けている。
 他愛ない戯れも、小さな喧嘩も、ふたりで過ごす何気ない時間も。
 東金とだからしあわせだった。お互いに取って、特別であることが大前提で、そのことを疑ったこともなかった。
 けれど、それがひとりよがりではないと、誰が教えてくれる?
 答えは東金に聞くしかないのだ。
「恋人、やろ」
 数拍のあと、東金は当然のように答えた。
「うん、そうだね。そして僕たちがつきあいはじめて、もう四年だ。この冬が終わったら、すぐ卒業だよ?」
 八木沢は畳み掛けるように告げた。会話の先を見通せないでいる東金は、ほんの少し眉を寄せる。
「僕たちは、いつまで小さなころのままの関係を続けるの?」
 八木沢のことばに、東金は目を瞠った。息を飲んで、ごくりとのど仏が動く。
「恋人なら、することがあるでしょう? それとも、僕がしたほうがいいのかな?」
 八木沢は東金の腰に乗ったまま、上体を前へ倒した。お互いの顔が近づいて、あと数センチ動けばくちびるに触れる。その距離で、八木沢はじっと東金を見つめた。
「ねえ、千秋。どうする?」
「俺、は……」
 東金はかすれる声で呟いた。が、それ以上の声は発されない。八木沢はじれて眉を寄せた。東金が据え膳を食わないというのなら、こちらが動くしかない。触れ合いたいのだ、という意思をこめて、八木沢は目を閉じながら顔を伏せた。
 だが、触れあう前に肩をつかまれ、力任せに身体を反転させられる。身体の下にあったはずの熱が、自分の上にあった。突然の抵抗に目を丸くする八木沢の上で、息をあらげて、東金はぎり、と奥歯をかむ。
「ユキ……」
 低い、熱のこもった声に呼ばれて、期待に背筋が震える。肩に置かれた手に力がこもる。押し倒した勢いのまま、東金は顔を伏せた。やっと東金からのアプローチをもらえたことに八木沢は薄く微笑んで、キスを受け入れるために瞳を閉じた。



2011.04.15up
冬コミペーパーの八木沢視点です。
これは、あれだ。文字数が多すぎて紙一枚に入りきらなかったので没にしたんでした。
八木沢だって普通の男で性欲もあるよ!な主張と、ヘタレすぎて全然手が出せない千秋さまを書きたかった話でした。
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