どうしよう、というのが亜貴の率直な思いだった。
乃凪は優しい。それは元から彼に備わっている資質で、だから亜貴は乃凪になりたいとさえ思った。
だから今さら、それによって困ることなどないはずだった。
けれど、それは亜貴の心をかき乱した。
柔らかな声も、穏やかな微笑みも、乃凪が持っている空気すら、亜貴を困惑させた。
亜貴が好きなのは従兄の内沼で、乃凪ではない。それが揺らぎ始めたのは、あの図書室での告白からだった。
あの声も、笑顔も亜貴を惑わせる。それが向けられるのは、亜貴だけではないと知っていても揺らぐ。
そばにいてくれる乃凪の優しさに甘えているだけではないのかと、最初は思った。
けれど、あるとき気づいたのは、その優しさを独占したいという浅ましい願いだった。
そこにいたって、はじめて亜貴は自覚したのだ。
まだはじめていない関係をはじめるためには、言葉が必要だった。
乃凪を目の前にして、亜貴は息を吸った。
「どうしたの、依藤さん?」
怪訝そうに振り返ってくる乃凪に、精一杯の気持ちをこめて。
亜貴は、その一言を口にした。
ようやく、ここから。
「先輩が、好きです」
驚きに目を瞠る乃凪に、亜貴は頬を高潮させたまま微笑んで、答えを待った。
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2007.12.14‖TAKUYO