ヴァイオリンが手に馴染みはじめてから、月森くんの音が本当に素晴らしいのだと改めて気づかされた。
高い技術力は、彼の努力によるものだろう。
サラブレッドだなんだと持ち上げられている彼の、隠された努力に気づく人はどれほどだろうか。
これまでも、これからも、彼はそれを当然として受け入れ、邁進していくのだろう。
それを思うと、少しだけ悲しくなった。
ヴァイオリンは、音楽は、それだけのものではないと気づきはじめていたから。
『音を楽しむ』と書いて『音楽』だ。
リリの言うように、それが本質だと思うから。
たしかに月森くんのように高い技術レベルでなければ弾けない曲もある。
けれど私みたいな初心者でも奏でられる音がある。
押しつけだとわかっていたけど、それを知ってほしくて何度も何度も一緒に練習をした。
そのうち月森くんの音が、変わった。
研ぎすまされた繊細さはそのままに、優しくて包みこむような、そんな音になった。
「君が、変えたんだ」
はにかんだ月森くんの顔を、私は忘れない。
綺麗な綺麗な、月森くんの音。
それは、奏でる喜びを知った幸福の音だった。
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2008.04.17‖コルダ:その他