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2017.12.16‖
※年間カレンダーはゲーム内に準じています。なので11月3日は登校日※



 笙子と土浦が恋人同士になったのは、つい最近のことだった。
 一緒にアンサンブルを組むようになって、土浦を怖いだけの人ではないと知った。ピアノの音は学内コンクールのとき同様、情熱的で、それなのに哀愁を含んで繊細だ。その音に魅了され、困っていたところを助けてくれた優しさに心が傾いた。
 そのうち、目が追うようになった。挨拶を交わすことも、会話をすることもできるようになった。土浦を目の前にすればどきどきとして、いつも以上に言葉に詰まる。出会った当初であれば、土浦は苛立ちを隠しはしなかっただろう。しかし、最近では苛立つどころか、見守るように接してくれた。土浦の態度が柔和になったことで、ますます笙子は土浦を意識するようになった。それが何故なのかわからないままに過ごしていたが、それは土浦からの告白によって意味を持ったのだ。あのときの声の響きを、まだ覚えている。低い声は、笙子の中にすんなりと入っていって、自分の気持ちを自覚させたのだ。
 そういう関係になってから、一緒にいる時間が増えた。登下校を一緒にするようになった。昼もできるだけ一緒に食べるようになった。そして放課後も、お互いの用事がないときには一緒に過ごす。一日が、以前とは違う色に塗り替えられていく。土浦と一緒にいるのが恥ずかしくて、どきどきして、嬉しい。
 今日もいつもどおり。放課後は一緒に練習をしようと言われたので、笙子は頬を染めながら予約してある練習室へ向かった。土浦のピアノを伴奏に練習できることは贅沢だと思う。それ以上に、一緒にいられる事実が笙子を浮かれさせる。
 土浦には告げていなかったけれど、今日は笙子の誕生日だ。この日に一緒にいられるなんて、どんな幸運だろうかと頬を染める。
 笙子は弾む胸を抑えながら、練習室へ足を向けた。



 クラリネットを組み立て終わり、楽譜を眺めていると、がちゃりとドアノブが回って、土浦が姿を現した。迎える笙子の頬は、わずかに上気して綻んでいる。だが、土浦の顔にはわずかな苛立ちがあって、びくりと身体を震わせた。そんな笙子には頓着せず、土浦は疲れたようにピアノの前の椅子に腰をかける。
「……一日中、お前のこと考えてた」
 笙子と視線を合わせるなり、土浦は言った。
 その言葉にどきりと胸が高鳴って、両手で心臓を抑えた。顔が赤くなって上げていられない。土浦の視線から逃げるように俯くと、コツコツとピアノの蓋を指で叩く音が響く。しばらくはそのままで、沈黙に堪えきれなくなった笙子が恐る恐るそちらに視線をやれば、土浦が真っ直ぐにこちらを見ていた。
「お前、誕生日今日だって、本当か?」
「………え?」
「だから、誕生日」
 思わず聞き返すと、苛立ちを濃くした土浦が、眉間にしわを寄せて言い捨てる。恐怖に身体を竦ませて、笙子は慌てて頷いた。
「…は、はい」
 今さらながらに、何故土浦が知っているのだろうかと、笙子は疑問を持った。そういう基本的な情報交換の会話をしたことは、今まで一切ない。笙子自身は、天羽からの情報によって土浦の誕生日を把握している。そう思い返して、土浦の情報源も同じかもしれないと考える。
 だが土浦の誕生日を知ってはいたものの、イベントごとに興味がなさそうな土浦の誕生日を祝いたいと願うことは、もしかしたら迷惑かもしれないと考えていた。今年の土浦の誕生日は、すでに過ぎている。来年になれば、もう少し打ち解けることができているかもしれないと、笙子は淡い期待を抱いていた。だから、つき合い始めたばかりの土浦に、自分の誕生日を告げることはしなかった。自分からそれを告げることで、何かを期待しているようだし、土浦に気を遣わせるのも悪いと思った。何より愛想を尽かされるのが怖かったのだ。
 しかし当の土浦は、はぁ、と大きく息を吐いて、頭を掻きむしった。その様子に、何が悪かったのだろうかと、笙子はびくびくと顔色を窺う。土浦の目が伏せられ、一層深いしわが眉間に刻まれた。最近ではあまり見なくなった表情に、笙子は手にした楽譜を握りしめる。くしゃ、とわずかに音を立てた楽譜に、土浦が笙子を見た。
「何で言わなかった?」
「え?」
「誕生日だよ」
「え、えと…。その…」
 言葉を探している笙子の前で、土浦の顔は苛立ちに染まっていく。凶悪な顔に、笙子もそれ以上を考えることができない。答えを返さない笙子に、土浦は畳みかけるように言葉を紡いだ。
「確かに俺は、記念日とかイベントとか詳しくもないし、興味もないし、いちいち面倒だとも思うがな、誕生日は別だろう。お前が生まれた日だぞ? 何で言わなかったんだよ」
 畜生、と小さく吐き捨てて、土浦は項垂れる。その様子に、近づくこともできなくて、笙子は小さく震えた。
「しかも一日中考えても、お前が好きそうなものとか、ほしがりそうなものとか、全然わからないしさ。そりゃそうだよな。そういう話なんか、したことなかったんだから」
 顔を上げた土浦は、笙子が今まで一度も見たことのない表情をしていた。
 自信に満ちあふれた土浦は、笙子にはいつも余裕があるように見えた。運動も勉強も音楽も、何でもそつなくこなす土浦には、常に王者の風格が漂っていた。彼にあるのは強さだ。何者にも侵されず、曲げられず、自分の信念を持ち続ける強い力。
 そんな土浦の、自信のなさそうな顔。
 はじめて目にする苦しげな表情に、楽譜を握る指に力がこもる。
「…………お前、本当に俺のこと好きか?」
 静かに尋ねられて、息を飲んだ。震える手で、口元を覆い隠す。声が出ない。
 ぐっと奥歯を噛み締めた土浦が立ち上がり、こちらへ足を踏み出した。知らず後退さって、狭い室内の壁に背が当たる。追いつめられて見上げれば、苛立ちにではなく眉を寄せた土浦が見下ろしている。いつもは強い光を宿す瞳は揺らいでいて、その様子に切なくなって胸が詰まった。土浦の長い腕が伸びる。それが、笙子の頭の上に壁を作った。覆いかぶさるような体勢で、けれど身体には触れない。お互いの身体は、近いのに遠い。
「お前に怖がられてたのは知ってる。でも今は大丈夫だって、そう思ってた。けど、そうじゃないのか? 俺の勘違いか? 俺は、お前にとって、何だ?」
 怖いんだ、と震える声で土浦は小さく呟いた。
 およそ土浦に似つかわしくない言葉に、笙子は大きく目を瞠る。
「お前に嫌われたくない。怖がられたくない。泣かしたくない。それなのに、どうしたらいいのか、わからないんだ。…だから教えろよ。頼むから、お前のことを俺に教えろ」
 泣きそうだ、と笙子は思った。
 土浦が、そして自分が。土浦が、こんなにも自分を想ってくれている。それだけで、本当に嬉しかった。土浦の恋人にはなったが、相変わらず自信などなかった。土浦が自分を選んだことが、まだ信じられないでいた。それが、こんな形で彼に不安を抱かせている。それが申し訳なくて、嬉しかった。
 伝えなければ、と笙子は思う。震える身体に力をこめて、ぎゅっと胸の前で手を握る。どうか想いが届きますようにと、どこか祈るような気持ちで口を開いた。
「………先輩と…」
 喉が震えた。それでも、ここで止めてはいけないと、懸命に声を出す。
「土浦先輩と、一緒にいられるだけで、よかったんです。先輩が、そばにいてくださるだけで、よかったんです。だって…、あの……」
 一緒にいたいと思うことは、わがままではなかった。誕生日にも一緒にいたかった。ただそれだけだ。だから、ここにいてくれるだけでいい。それが伝わればいいと、笙子は願う。
「……わ、私も、先輩のこと、……好き、だから」
 緊張に固まって動こうとしない腕を、無理矢理に動かして、ぎゅっと土浦のブレザーを握る。離れないで、離さないで。想いをこめて見上げれば、土浦の胸に引き寄せられた。
「………! せ、せんぱ……!」
 驚きに身体を離そうとする笙子の耳元に、土浦の声が落ちる。
「好きだ」
「……!」
 お前が好きだ、と硬直する笙子の耳元で、もう一度囁かれる。恐怖とは別の感情に身体を震わせると、さらに強く抱き締められた。
「来年はプレゼント用意するから、来年も一緒にいよう」
 身体を伝って、声が響く。嬉しくて、声が出ない。必死で頷くと、土浦から苦笑が漏れる。
「だから、泣くなよ。泣かせたくないんだって、さっきも言っただろ?」
 優しい声に、ますます涙がこぼれる。困ったように土浦は笑って、大きな手が涙を拭っていく。
「だって、…嬉しいんです」
 泣きながら笑うと、土浦が息を飲んだ。それを大きく吐き出されて、また苛立たせたかと心配になって笙子は必死で涙を拭う。ごめんなさいと謝る笙子に、違うと土浦は首を振る。
「そんなにこするな。赤くなるだろ」
 腕を取られて、動作が止まる。恐る恐る土浦を見上げると、真剣な目とぶつかった。笙子が喉を喘がせると、土浦は決意したように唇を引き結んだ。土浦の首がわずかに傾く。男らしく骨張った顎のラインがあらわになって、どきりと胸が高鳴った。見るともなしに眺めていると、土浦の目が伏せられる。通った鼻筋、凛々しい眉。薄い唇はわずかに開いていて、男の色気を感じる。土浦のそんな雰囲気もはじめてで、どきどきと高鳴る胸に気を取られていると、知らない感触が唇を覆った。
「!」
 そのやわらかな感触に、思考回路が止まる。しかし身体は正直で、あっという間に頭に血が昇った。顔も耳も首も、身体中が、熱い。触れられたのは、たった一瞬。それでも鮮明に残る感覚に、息も忘れる。
 二人の間に息が落ちて、土浦の目が上がった。至近距離で見つめられて、金縛りにあったかのように身体が動かない。涙も驚きに止まった。吐息が触れる距離で、土浦が低い声で囁いた。
「誕生日、おめでとう」
 優しい響きに、また泣きそうになって、笙子は土浦の胸に顔を伏せた。





冬海笙子お誕生日企画『楽譜を探しに行こう』さま提出作品。
本当はもっとわかりやすく、ベタベタに甘い話を書くつもりだったのに、何でかこうなった。
でも、土浦が臆病なのもいいと思います。
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