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2024.03.29‖
マンゴープリンの八木沢視点。



「じゃーん! 七海くんから差し入れのマンゴープリンで〜す!」
 星奏の面々が開いてくれた至誠館と神南との親睦会も終盤となり、かなでがニコニコしながら運んできたのは、濃い黄色のデザートだった。カップに入っているそれをひとりずつ配りながら、かなでは途中で「あれ?」と首を傾げた。
「一個足りない……?」
「そんな、宗介には数を確認しましたよ」
「うん。七海くんが持ってきてくれたときにはあったんだけど…」
 ハルとかなでが眉を寄せるのを見て、八木沢は自分が持っていたカップをふたりの前に差し出した。
「僕は結構ですから、みなさんでどうぞ」
 にこりと笑って返そうとすれば、ハルとかなではとんでもないというように首を振る。
「い…いえ、そんな! もてなす側がいただくなんてできません!」
「そうです! 八木沢さんには、特にお世話になってるのに!」
 ハルが拒否すれば、かなでも食い下がる。思った以上の反発に、八木沢は目を瞬かせて、けれど静かに首を振った。
「実は、もうお腹がいっぱいなんです。水嶋くんと小日向さんたちが作ってくれた料理が、とてもおいしかったので」
 こっそりと内緒話をするように声を潜めると、ふたりは顔を見合わせた。
「本当、ですか……?」
「ええ」
 ハルの質問と本心を窺うような上目遣いのかなでに頷くと、八木沢はカップを彼女に手渡した。
「とてもおいしそうなので味は気になるんですが、全部は食べられなさそうなので、足りない方に渡してください。残すのも七海くんに申し訳ないですしね」
 今度、七海くんのお店に食べにいきますから、と伝えれば、もう一度顔を見合わせたふたりは、ありがとうございます、と頭を下げた。
「いえ、それはこちらのセリフですよ。今日は楽しい会を本当にありがとうございます。これから演奏もしてくださるんですよね。楽しみにしていますから」
 その八木沢の言葉に、ふたりが頷こうとしたときだった。
「ユキ」
「ん?」
 背後から呼ばれて、八木沢は振り返った。そこには東金がいて、何故か不満げだった。
「どうしたんだい? 千秋」
 首を傾げて尋ねると、ずかずかと歩み寄ってきた東金は尊大に言い放った。
「口開けろ」
「は?」
「いいから開けろ。無理矢理突っこむぞ」
 甘いもの好きなくせに、と続く言葉の音量を落としたのは、かなでやハルに聞こえないようにという東金なりの配慮だったのだろう。八木沢は嬉しさに微笑みながら、東金の言うとおりに口を開けた。すると妙に手慣れた仕草で、東金はスプーンに乗せたマンゴープリンを八木沢の口へ運んだ。
 その途端、芳醇なマンゴーのかおりが鼻を抜けていく。ほどよくやわらかいゼリー部分はすんなりと喉を通って、完熟の柔らかな果肉がアクセントになっていた。さっぱりとした後味ながら、濃厚なマンゴーの風味も感じられて、八木沢は食べられたことを幸せに思った。和菓子屋の跡取りとして、スイーツ関係のものはできるだけ口にしたいところでもあったのだ。それ以上に、こんなにおいしいものを口にできたことが嬉しい。
「ありがとう、千秋。本当においしいよ」
 マンゴープリンを飲みこんでから八木沢は東金に礼を告げ、振り返ってそのやり取りに、ぽかんとしているハルとかなでに向き直る。
「こうして千秋も味見をさせてくれたし、それはおいしくいただいてくださいね」
 言えば、はっと我に返ったふたりが改めて頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「はい。それでは」
 胸に温かいものが溢れているのは、親睦会を開いてくれた星奏学院のメンバーのおかげでもあるし、こんなにおいしいマンゴープリンを差し入れてくれた七海のおかげでもあるし、それを分け与えてくれた東金のおかげでもあった。ハルとかなでに背を向けた八木沢は、東金を見つめて艶やかに微笑んだ。
「ありがとう、千秋。千秋は本当に優しいね」
 すると、息を飲んだ東金の頬がみるみる赤く染まった。その変わりように、八木沢は目を瞬かせる。
 何かおかしいことを言っただろうかと問いただす前に、スプーンを突っこんだカップごとマンゴープリンを押しつけられた。
「これはお前が食え! 俺が分けてやったんだ。いいか、残すなよ」
 噛み付くような勢いに、マンゴープリンのカップへ目を落とすと、それはほとんど減っていない。東金も一口を食べた程度だったのだろうと予想をつけて、八木沢はそれじゃあ、と笑顔で告げた。
「半分こにしようか。小さいころは、よくこうして食べたよね」
 八木沢は、先ほど自身がしてもらったのと同じように東金の口の前にスプーンを差し出した。
「はい、あーん」
 にこにこと悪意のかけらもない八木沢の前で、東金はどうしたものかと困窮したのであった。



2011.04.15up
八木沢視点のは、ハルとかなでとの会話が多いなーと思って、同じ話で東金視点を書きました。
だから、できたのはこっちが先。
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