「先生」
敬礼の真似事をして、彼女が笑う。
「日野香穂子、本日卒業しました」
「おめでとさん」
彼女に向かって、腕を広げた。
いきおいよく、彼女の身体が腕の中におさまる。
「やっと、だな」
本心から吐き出した言葉に、彼女がまた笑った。
「やっとですね」
同じように思っているのだとわかって、頬が緩む。
触れたくて、抱きしめたくて。
けれど手なんか出すことはできなかったものが、今ここにある。
「せんせ、せんせ…! 苦しい!」
「お。悪い悪い」
無意識に力を込めていた。
それを知って、どうしようもないなと苦笑する。
ああ、もう、どうしようもない。
こんな一回りも下の生徒に恋情も独占欲も全部持っていかれて、我慢もできないなんてどういうことだ。
「香穂子」
呼べば顔を真っ赤にして、けれど笑う。
嬉しくて仕方がないというように。笑う。
可愛くて、愛しくて、このまま攫って閉じこめてしまいたい。
けれど、それはできないから。
せめて、その唇を塞いでしまおう。
それこそ、息が、つまるほど。
PR
2007.04.04‖コルダ:金澤×日野