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2024.04.19‖
土浦大学生、冬海ちゃん高校3年生
2011年土浦誕



 携帯電話が振動した。
 大学の前期試験勉強のために机のうえに課題を広げていた土浦は、ウインドウに流れる名前を見て顔をなごませる。冬海からのメールだった。
 冬海と出会ったのは2年前。妖精の主催する学内コンクールの参加者としてだ。そして、彼女が土浦の恋人になったのは、出会ってから1年が経ってからだった。そこからさらに1年をかけて、やっと冬海は自分から土浦へ連絡を寄こすようになってきた。原因としては、土浦が高校を卒業してしまったことが大きいだろう。学年が違っても、学科が違ったときでさえ、同じ学校敷地内にいれば顔を合わせることくらいはできたが、今はそうもいかない。意識して会おうとしなければ、顔を合わせることすらできないのだ。
 土浦は長かった不毛な期間を思い出して苦笑した。携帯を手に取りメールを開くと、丁寧な文章で冬海からのメッセージがある。
『夜遅くにすみません。試験勉強はいかがですか? 試験期間中なのはわかっているんですが、少しでいいので25日にお会いできないでしょうか?』
 メールに目を通し、今月の25日、と考えて、土浦はまたしても相好をくずした。自分の誕生日だと気づいたからだ。
 25日は試験期間中真っ只中だが、幸いというべきか午前中に実技がひとつ入っているだけで、午後の予定はなにもない。なにもない、というと語弊はあるが、とにかく時間を作れないことはない。この日の実技のテストさえクリアしてしまえば、あとは筆記だけだ。今さら筆記テストで慌てて詰めこまなければならないような、要領の悪い勉強の仕方はしていない。
 懸念材料としては、ゼミの連中につかまって、勉強会を開けと言われる可能性があるが、そんなものは知ったことではなかった。
 土浦はたいした逡巡もなく、短く返信のメールを打つ。
『午後からなら時間が取れる』
 冬海のわがままが、ようやく最近になって聞けるようになってきた。
 そのことに喜んでいる自分に土浦は気づいていた。
 この、誕生日に会いたいというメールもそのうちのひとつだ。本当にささいな、他愛もないことで冬海は気後れして、自分ののぞみを口にしない。そのことがどれだけ土浦をいらだたせるのか、何度も説明してやっとここまで漕ぎつけた。
 かわいい彼女の願いなら、なんでも叶えてやりたいと土浦は思っているのに、それが伝わらないもどかしさは口にはできない。冬海がまた、土浦のためを思っているからこそ、余計に。
 それでも、声が聞きたいとか、会いたいとか、好き合っていれば当然出てくる欲求さえ口にしないのには参った。どうしてあんなに自分を卑下するのだろう。土浦は冬海のことが好きなので、彼女本人が卑屈になるのがどうしても許せない。
 そんなことを考えていたら、手のなかで携帯が振動する。メールの返信にはこうあった。
『ありがとうございます。お会いできるのを、楽しみにしています』
 彼女のやわらかなほほえみを思い出して、土浦は浮かれている自分を自覚する。そして笑み崩れたまま、詳しい時間と場所を指定して携帯を閉じた。



「土浦くん、ちょっといい?」
 25日。
 午前の実技を終わらせた土浦に、案の定声がかかった。振り向いたさきにいるのは、見知った顔の面々である。予想どおりであることに嘆息し、土浦は荷物を肩に担いで彼らに背を向けた。
「悪いな。今日は帰る」
「ええー! 土浦くんだって、明日筆記あるでしょ?」
「そうだ。みんなでやれば教え合えるだろ?」
「……あのなぁ、俺が一方的に教えるんだろうが。とにかく今日は用事があるから勉強会はパス。お前らだけでやれよ」
 勉強は誰かに伝えることで反復になる。だから基本的に土浦は教えることを拒まない。
 しかし、今日だけは駄目だ。
 自分の誕生日を、かわいい彼女が祝ってくれるのだ。しかも、前期試験があったせいで、しばらく顔を合わせていない。久しぶりに会える機会を、彼女との約束を棒に振る気はこれっぽっちもない。
 だが断ったというのに、歩きはじめた土浦につきまとうようにして、彼らは往生際悪く後を追いかけてくる。
 このままついてこられると厄介だなと考えながら土浦は眉をしかめた。冬海が夏休みで時間があるというので、待ち合わせは大学の校門前なのだ。冬海は土浦の彼女だが、その存在を彼らには教えていない。教えれば会わせろと言われるのは明白だったが、見世物のように彼女を扱うことは論外であるし、そもそも見せることすら勿体ない。
「用事ってなんだよ。俺らより大事かよ!」
「そうだよ」
「えー? なになに? 気になる~」
 即答した土浦に、女子生徒が興味津々といったようすで目を輝かせる。それを無下にあしらって、土浦は鼻で笑った。
「俺のことより勉強しろよ。単位足りなくても知らないぜ」
 そうこう言い合いをしているうちに、校舎を出てしまった。こうなったら、さっさと冬海を見つけてこの場を去ってしまおうと考えて、校門方面に足を向ける。
 冬海はモノクロのなかの天然色のように、人ごみのなかでも見つけるのが容易かった。そうであるのは自分だけなのか、それとも他人もそうなのかは考えたことがない。たとえ、自分だけがそう見えているのだとしても問題がないからだ。ぐるりと首をめぐらせると、誰かが数人に囲まれているのが見えた。悪い予感がして足を向けると、それは的中している。
「あ、あの……、だ、大丈夫、です。待ち合わせをしているだけ、なので……」
 漏れ聞こえてきた声に舌打ちがもれた。
 校門前は、どうしたって人通りが多い。今日が試験日だとしても、それは関係ない。だから通行する誰かの目に冬海が留まることは必然と言えた。冬海は10人に聞けば、10人が美少女と口をそろえる美少女なのだ。常に潤んだ大きな瞳、長いまつげ、小作りの鼻に、薄紅のふっくらとしたくちびる。少女らしい繊細さを感じさせる顔立ちを裏切ることなく、引っ込み思案で臆病な性格。
 はかなげな風情すら漂う彼女がナンパされていることは、もはや日常茶飯事だった。土浦とつきあうようになってからのほうが、そうした誘いを受けることが多くなったと彼女は言ったけれど、それがいいことなのか悪いことなのか、土浦は頭を悩ませている。なぜなら、土浦とつきあうようになって、冬海は笑顔が増えた。そのせいだと日野や天羽は断言したからだ。
「いやいや、キャンパス広いよ。校門もここだけじゃないし」
「だから案内してあげるって!」
 しつこくつきまとわれているのは、自分だけではなかったと会話を耳に入れながら土浦は大きく息を吐き出す。
 眉間に深い深いしわを刻んで、土浦は手前に立っている男の肩をつかんで引き寄せた。力加減はしているつもりだったが、できなかったかもしれない。突然のことに後ろにのけぞった男を、冬海を囲んでいた男たちが振り返る。
「すいません。それ俺の連れです」
「先輩……!」
 土浦を見て、怯えに曇っていた顔がぱあっと晴れ、明らかにほっとした様子で息を吐く。しかも囲まれているところから自分の意思で抜けだして、冬海は土浦の背後に回りこんだ。ぎゅっとシャツのすそを掴んでくるのに優越感を抱きながら、土浦はひどく優しい顔で冬海の頭を撫でた。
「連れが世話になりました。でも案内とか必要ないんで」
 次に見かけても手ぇ出さないでくださいね、と土浦はふてぶてしく笑いながら告げ、冬海に向かって手を差し伸べた。
「ほら、行くぞ」
「はい」
 唐突な展開に、まわりは呆けて、ふたりを止める者はいなかった。重ねてきた小さな手を握り締めると、そこにいる誰の目をも釘付けにして、冬海はふわりと笑う。
 その目に写っているのは自分だけだと自惚れて、土浦は冬海の肩を引き寄せる。冬海は抵抗もせず、すっぽりと自分の腕のなかにおさまって、恥じらうように顔をふせた。



 こうして、なんの疑いもなくそばにいてくれることが何よりも嬉しいのだと告げたなら、その赤い頬はもっと赤く染まるだろうか。
 本当は誕生日プレゼントなんて必要ない。一緒にいて、その笑顔を見せてくれるだけで。
 それだけでいいだなんて無欲なことは口にしないけれど、彼女の笑顔が自分にだけ向いていることにひどく満ち足りて、土浦は低く笑った。



大学の友だちと仲よしな土浦に、ちょっとだけ嫉妬する冬海ちゃんとかどうかなーと思って書きはじめたのですが、ただの彼女自慢な話で終始してしまいました…。土浦の果報者!
まあ、でも仕方ないよね。冬海ちゃんが彼女だもんね。
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