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2017.10.23‖
 B6/30P/¥300/2011.09.04発行予定



 八木沢が幼なじみの東金と久しぶりに再会したのは、お互いに縁もゆかりもない横浜の地でのことだった。
 顔を合わせて早々、八木沢がしたことといえば、懐かしさをこめた挨拶でも、感動の抱擁でもなく、昔と同じく傍若に振る舞う東金を叱ることだった。あのとき東金は、くすぐったそうに目を細めて笑っていたように思う。
 ああ、昔と変わらないな、とそんなことを考えながらこちらも笑って、やっと普通の挨拶に戻ったのだ。
 東金と顔を合わせたとき、八木沢はうれしさを感じていた。
 なぜといって、ふたりの出逢いは偶然のうえに成り立ったものであったからだ。
 八木沢は地区大会で負け、本来ならばすでに仙台へ帰っているはずだった。順調に地区予選を勝ち上がってきた東金とは、顔を合わせるはずがなかった。
 それなのに、ふたりは再会した。
 幼なじみとはいえ、東金は神戸、八木沢は仙台と居住区は遠く離れている。どちらも交通網の発達した日本国内であるから、会おうと思えば会える。しかし幼少のころ別れたきり、ふたりは積極的に会ってこなかった。
 ふたりを引きあわせたのは彼らの母親たちであり、その母親たちは手のかからなくなった子どもを抜きにして仲よくしている。それに学校に通うようになれば、それぞれのコミュニティが広がった。お互いばかりが唯一の相手ではなくなった。気やすいといえば気やすい間柄だが、だからこそ連絡を頻繁に取り合うことはなかった。
 ただ、幼いころの共通の思い出があるぶん、他の誰よりも仲はいい。
 東金は尊大で傲慢だが、実際のところ大した努力家だった。それを知っているから、八木沢は東金がどれだけ偉そうな態度を取っても嫌いになることはない。水面下で一生懸命に足を動かして、優雅に水面を滑る白鳥と同じだ。取り澄ましたところがあっても、表面から見える部分がすべてではない。それを八木沢は知っていたし、東金も八木沢に隠すことをしなかった。
 八木沢は、東金を嫌っていない。むしろ好きの度合いが大きい。
 けれど、それは友人としてであって、それ以外ではない、はずだ。
 東金に向けられたことばに、ぐらぐらと頭を揺さぶられて、八木沢は額に手を当ててうつむいた。
 東金に時間を取れるかとたずねられて、是と答えた。歩く東金についてやってきたのは、菩提樹寮からほど近い公園だった。密とした木の枝は、夏の凶悪な陽射しを遮って葉を広げている。その木立を少し入ったところで、東金は足を止めた。周囲に人影はなく、内密のはなしをするにはいい場所のように思えた。
 だが、八木沢は肝心の「内密のはなし」とやらに心当たりがなかった。
 ふと考えついたのは、世話になっている菩提樹寮や星奏学院のオーケストラ部員たちに対する謝礼だ。そのことで部長同士、話をしたかったのか、と東金に視線をやると、彼の様子がおかしいことに気づいた。
「千秋?」
 呼びかけに、東金は首をもたげた。こちらを見る視線は、今まで八木沢に向けたことのない種類の感情を秘めていた。――と、感じ取ってしまったのは、自分も同じように押し殺している感情があったからなのかもしれない。
 どくり、と心臓が妙な音を立てる。
「ユキ……」
 東金の声は熱をはらんで、かすれていた。
 聞いてはいけないと、頭のなかで警鐘が鳴る。
 けれど八木沢の葛藤などおかまいなしに、東金はくちびるを動かし、声を発した。聞き逃すことも、聞き違えることもない距離で。
 だから東金が八木沢に伝えようとしたことばは、意味を含めて正しく届いた。
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2011.08.26‖offline


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