「………何やってるんだよ」
滅多に人の来ない特別棟の資料室。資料室というよりは、どちらかと言えば倉庫に近い。
日直だったせいで用事を押しつけられ、そこへ向かうとドアの前の廊下に冬海が座りこんでいる。
その周囲には大量の紙が散らばっていて、どうしたのか聞かなくてもわかったが、つい尋ねてしまった。
「土浦先輩……」
顔を真っ赤にして、手元の紙に視線を落とす。
「え、と。あの……」
「何で無理なら誰かに頼まないんだよ」
膝をついて散らばった紙を拾い集める。
よく見ればそれはオーケストラの楽譜で、部活で使用するのかしたのか。とにかくその類いのものだとわかる。それこそ誰かに手伝ってもらえばいい。
「しかもこれ、フルスコアじゃないか。お前が運ぶことなんてないだろう」
「いえ、その………。すみません…」
小さく謝るのに、ため息をついてしまう。ビクリと冬海の肩が動く。
床から目を上げてそちらを見ると、怯えたようにこちらを窺う冬海の目とあった。
いつもは下にある顔が、正面にある。
引き寄せられるように手が伸びた。
丸みを帯びた頬に触れる。
「せ、先輩……?」
さらりと細い髪を耳の後ろに撫でつけるように手が動く。
あらわになった耳が赤い。
「お前、小さいよなぁ」
片手で掴んでしまえそうな頭。
自分よりも小柄な冬海のパーツが大きいはずはないのだが、それでもこちらを見つめる驚きに満ちた瞳だけは大きい。
「せ、…先輩が、大きいんだと、思います……」
「そうなのかもな」
俯きそうになる冬海の顔を、後ろに回した手で制して、そのまま顎を上げさせる。
「せんぱ……?」
「黙れ」
短く言って、唇を塞ぐ。
冬海の手に集まっていた楽譜が、音を立てて落ちた。
「………ッ!」
首から上を、あっという間に桃色に染め上げて、冬海は凍ったように動かない。
かわいくて、かわいくて、仕方がない。
「あとで拾ってやるから、もう一回」
言ってもう一度、顔を傾けて近づけた。
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2007.05.17‖コルダ:土浦×冬海