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2017.10.23‖

002

 お願いだから、疑わないで。
 お願いだから、信じて。
 私が好きなのは、あなたです。



「傘がないなら誰かに言えばいいのに」
「………スミマセン」
 くすくすと乃凪が笑う。隣で亜貴は身体を縮め、恐縮していた。
 同じ傘の下で、お互いの身体が近い。ドキドキしながら亜貴は乃凪を見上げる。思っていたよりも、背が高い。いつもは疲れたように背を丸めているから、本来より小さく見えるのだろうか。たしかに腕や身体は細いかもしれない。けれど、傘を持つ手は骨張っているし、肩幅はしっかりとしている。亜貴が持っている印象よりも、乃凪はよっぽど男の人だった。
「ん?」
 視線に気づいたのか、乃凪が亜貴を見る。慌てて視線をそらしてしまって、そんなことをする必要なんかないじゃない、と内心で叫ぶ。身体中の熱が集まったように顔が熱い。
 乃凪は、優しい。
 苦しくなるくらいに、優しい。
 だから、乃凪のようになりたかった。そうすれば内沼に好きになってもらえるんじゃないかと、馬鹿なことを考えた。亜貴が変な変身願望を持っていなければ、乃凪はあんな騒動には巻き込まれずにすんだはずだ。あの事件は、術者のルカのせいだが、当事者の亜貴のせいでもある。亜貴に関わりさえしなければ、乃凪が被害を被ることもなかったのだから。
 けれど、乃凪は謝らせてくれない。
 お互いさまだと笑って、取り合ってもくれないのだ。
 胸の前に抱えた鞄を、ぎゅっと抱き直す。心苦しくて、これが罪悪感なのかほかの感情なのか、もうわからない。
 けれど、内沼に失恋したと、それがわかってもそんなにつらくなかったのは、間違いなくこの人が隣にいてくれたからだ。
 乃凪が、そばにいてくれたからだ。
 亜貴にはそれがもう、わかっている。
 内沼が好きだった。でも、それはもう、過去の話なのだ。今でも内沼がとても大事な人であることには変わりない。けれども、それ以上ではない。
 何度かそう口にした。
 けれど乃凪は、困ったように笑うばかりで亜貴の心を否定するのだ。
 乃凪と亜貴は想いが通じ合っているはずなのに、肝心の乃凪がそれを拒否する。これがあの事件の代償なのだとすれば、何てつらい代償なのだろう。
 困っていれば助けてくれる。手を差し伸べて、乃凪は亜貴のことを救い上げてくれるのに、最後の最後でどん底に突き落とす。乃凪にはその認識がないから、余計に困る。
 優くて、優しすぎて、乃凪は残酷だ。
「はい到着、と」
 乃凪の声が聞こえて、はっと顔を上げる。
 いつの間にか、亜貴のアパートの前に来ている。傘を差しかけたまま、乃凪がアプローチを抜けて玄関前まで亜貴を促してくれる。
「どうしたの? 悩みごと?」
 ずっと俯いて会話のなかった亜貴を心配したのだろう。ひどく心配そうな声で乃凪が尋ねてくる。
「せん、ぱい………」
 声がかすれた。顔が歪んだ。笑いたいのに、笑えない。
 好き。好き。好きだ。
 乃凪のことが、本当に好きだ。
 思うだけで幸せで、考えるだけで苦しい。
 わかってほしかった。
 この胸を占める想いを、知ってほしかった。
「俺でよかったら、話聞くから。いつでも言って?」
 頭を撫でられる。大きな手に憎しみさえ抱く。
 ぱたりと乾いたコンクリートに涙が落ちた。
「依藤さん?」
 もう苦しくて仕方ない。
 信じてくれないなら触れないで。
 通じない想いなんて、もういらない。
 乃凪のシャツを握りしめる。しわになると思ったけれど、離したくなかった。
「じゃあ、今がいいです……」
「今から?」
「………はい」

 出口のない想いを、ねえどうか。
 あなたに掬いあげてほしいんです。


 


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2007.06.26‖TAKUYO
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