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2018.08.15‖
「で、どうよ。誘ってくれる相手の当てはあるの?」
「いえ…。誰か踊る相手はいるの? って聞かれたことはありますけど…」
「…それって申し込みでしょ」
「え…ええっ、そうなんですか。き、気がつかなかったです」
「…あーあ。男ども、かわいそ…」



「そりゃ、よかった」
 女同士の会話に割り込みながら、土浦は冬海が鈍くてよかったと本心で思う。
 気持ちを伝えあったというのに、冬海は逃げ続けてばかりだ。言葉を聞きたいわけではない。だが、言葉にしないと伝わらないこともあって、だから時間を作りたいと思っていたのに、文化祭の準備に追われてそんな暇はできなかった。それならばとコンサートの後、呼び止めようとした姿はすでになく、結局このエントランスまで追いかけるはめになったのだ。
「あ、え、土浦先輩!?」
「それなら、俺が誘っても構わないよな」
 真っ青な、名前と同じ冬の海の色をしたドレスに身を包んだ冬海の腕を掴む。その細さに土浦はくらりとした。柔らかくて細くて、力加減を間違えれば壊してしまいそうだ。
「え、ええっ…!?」
 天羽や日野が驚いた様子でこちらを凝視している。間抜け面と思ったが、今ばかりはそれを揶揄する余裕もない。
「冬海、借りてくぜ」
「きゃあっ…!」
 驚いたままの日野と天羽に言い捨てて、慌てた様子の冬海を引きずって歩く。
「あ、ま、待ってください! 香穂先輩、天羽先輩、助けてください……!」
 まるで売り飛ばされる少女のようなセリフに、少しばかり苛ついた。しかし強引であることは否めない。ホールを突っ切っる間、好奇心の視線と冷やかしがあったりもしたが、この際それは完全に無視した。やましいことは何もないし、むしろこれで牽制できるなら願ったり叶ったりだ。
 エントランスから外へ出ると、そこは対照的に暗い。ひんやりとした廊下を歩きながら、土浦は歩調を緩めた。腕の戒めははずさない。ここまで来て逃げられるとは思わなかったから、それでは何故と自問すれば、ただ触れていたいだけなのだと気づく。
「いきなりで悪かったな」
「……え、えと。その……」
 冬海は下を向いたままだ。わずかに覗いた耳が赤いのが、薄暗い中でもわかる。そんな冬海の腕を引いて、土浦は校舎の中を歩く。カツカツと靴の音が響いた。
「それにしても助けてくれ、か……」
 喉の奥で笑うと、背後で慌てたような気配が伝わった。しかし結局何を言ったらいいのかわからなかったらしく、とても小さい声ですみません、と冬海は呟く。
「謝る必要はないぜ。本当に助けが必要になるかもしれないしな」
「………!」
 冬海の足が止まった。
 土浦も、止まる。
 冬海を正面から見つめて、土浦は言う。
「でも逃がしてやらないし、離す気もない」
「せんぱ……」
 かすれた冬海の声。
 土浦はほんの少し笑って、腕を引く。
「練習室へ行こうぜ。そこなら誰も来ないだろう」
 小さく、冬海が頷く。
 それを見届けて、土浦は暗い廊下の先を見た。


* * * * *


 練習室という密室に入って、冬海は緊張しているようだった。しきりに何か言葉を紡ごうとしている。唇や指が忙しなく動いていて、そんな様子を見ているのが楽しい。
「ほら、座れよ」
「は、はい……」
 土浦がピアノの前から引き出した椅子に、冬海は何の疑問もなく腰を下ろす。冬海は無垢で人を疑うことを知らないのだろう。それでいて、おどおどと見上げてくる瞳は潤んでいて、土浦は苦笑する。そんな風に見つめられたら、降参と叫んでホールドアップしてしまいそうだ。
 最初は小動物のようで苦手だった。扱い方がわからないのだ。
 怖がられていたという自覚はある。話しかけても、音楽以外のことではよく逃げられた。
 日野と話しているところに割りこめば怯えられたし、月森を睨んだつもりがそこには冬海がいて泣かれそうになったこともある。体格がいいとか、男らしいとか、運動部にいるときには利点にしかなりえないことで、冬海は土浦を苦手の部類に割り当てた。
 だからといって、自分を変えようとは少しも考えなかった。土浦も土浦で、女らしいという形容にピタリと当てはまる冬海が苦手だったからだ。
 今年の入学式では、美少年と美少女が揃って音楽科に入学してきたと持ち切りだった。いつも控えめで可憐な冬海は普通科でも注目株だったが、土浦はその騒ぎの中には入らなかった。もっとサバサバしていてつきあいやすい女が好みだったし、今までは実際そうだったから。
 だから、土浦は自分が目に見えてわかるほど変わったわけではないと思っている。冬海は細くて折れそうな外見をしているくせに、音楽のこととなれば意外に頑固だ。コンクールの途中までは自信のない音をしていたが、どこからか吹っ切れたように前向きな音になった。それが日野のせいだとわかったのはコンクールが終わった後で、それからオケ部に入部したのだと聞いて、驚くよりも、そう来たかと内心で納得もした。
 芯が真っ直ぐだという点においては、冬海はそのへんの生徒よりも勝っている。
 それに気づいたから、気になりはじめたのか。それとも気になりはじめたから、それに気づいたのか。そんな鶏と卵のような問答をする趣味は土浦にはない。
 今でも彼女の本質は変わっていないし、土浦本人の本質も変わっていない。未だに冬海は土浦を見て怯えたり、逃げたり、そういうことを平気でする。ただそれは、慣れていないと一言で表してしまえるものだから、これからいくらでも改善できる。嫌われてはいない。それは彼女の告白が裏づけている。
 土浦は冬海の視線を真正面で受けとめた。
 逃がしたり手放したり、そういうことは性に合わない。
 柔らかく清麗な音を奏でる冬海の、何に惹かれたのか。そんなことは、もうどうでもよかった。彼女が今目の前にいる。その瞳にうつっているのは間違いなく土浦自身だ。
 自然と、膝をついた。
 着ているスーツの裾や、スラックスが汚れるなんて考えもしなかった。
 いつもは目線の下にある冬海の顔が、ほんの少し見上げる位置にある。これではどこかの騎士のようだ、と土浦はどこか冷静な頭で考える。従うべき相手に忠誠を誓う騎士。それに似たものを感じて、冬海の顔を覗きこんだ。
 ポケットに手をつっこんで、用意してきたものを手のひらに乗せる。
「せんぱ……?」
「柄じゃないのはわかっていたんだがな。用意したんだ、コサージュ」
「……あ」
 冬海の目が大きく見開かれる。ただでさえ大きな瞳がこぼれ落ちそうで怖い。土浦は手にしたコサージュに目線を落として、もう一度冬海を見上げた。
「あの言葉が嘘じゃないなら、俺と踊ってくれないか」
 自信があるように見えるのは、そこに余裕があるからだ。こんな状況で、余裕なんかない。
「俺は、お前が好きだ。だからお前と踊りたい」
 ひとこと。
 零れるような微笑みと、言葉を。
 それを望んでいる。
 見開いていた冬海の目に、うっすらと涙が浮かんだ。見上げている目が、どんどん潤む。ひと雫が頬を伝って、それを美しいと土浦は思った。
 涙の軌跡を追った土浦の目が、わずかに上下する冬海の頭を捉えた。
 ピンク色の唇が動く。
「…私も……、私も、先輩が、好きです」
 涙をたたえたまま、冬海が俯く。
 しかし今の土浦は、その表情が見える位置にいる。いつもは見られなかった恥じらうような表情。頬も耳も、首筋までを赤くして、冬海は小さな手で顔を覆う。
 指の間から涙がこぼれ落ちる。
「呆れられてしまったんじゃないかと、思いました。私、逃げてばかりで、先輩に、嫌な思いばかりさせて……」
 だから、と、冬海はしゃくり上げる。
「この間の先輩の言葉も、冗談なんじゃないかって…」
「嘘や冗談でそんな恥ずかしいこと言うかよ」
 苦笑して、土浦は冬海に手を伸ばす。コサージュを握ったままだったのに気づいて、冬海の髪をさらりと梳いた。
「コサージュ、つけさせてもらって構わないか?」
「……はい」
 冬海の目が上がり、跪いた土浦に微笑みかけた。
 不意打ちをくらって、土浦は息を飲む。
 入学のときに騒がれただけはある。やはり冬海はかわいいのだ。それが頬を染め、こちらを向いて好意を示し、微笑んだのだから心中を察してほしい。
「先、輩…?」
 まばたきを繰り返すのもかわいい。
 そんな冬海の動作の一つ一つが、かわいくて仕方がない。
「やっぱり、かわいいよ、お前」
「………ッ」
 笑って言えば、今度は冬海が息を飲む。ただでさえ赤かった頬が、さらに温度を持ったようだった。頬を押さえて、冬海はまた俯いてしまう。微笑ましくなって、土浦は息で笑う。
「動くなよ。慣れてないんだからな」
 胸元にあてがって、ピンを通そうとするのにうまくいかない。緊張しすぎだ。コンサートでもこんなに緊張していないのに。手間取っていると、冬海がおずおずと手助けを申し出る。
「先輩、私が…」
「俺にやらせてくれないか。これは俺の役目だろう?」
 だが、それを断って見上げれば、恥じらって頷いた。
 胸元に花が開く。
 ようやくつけ終えれば、嬉しそうに冬海がそれを見つめている。コサージュに触れようとした冬海の手を取って、土浦が正面から冬海を見つめた。
「先輩……」
「一曲、お相手ねがえますか?」
「はい」
 綻んだ冬海の顔を見て土浦も笑った。
 手に取った小さな手に、土浦は唇を寄せる。
「せんぱ……!」
 慌てたような冬海を見て、土浦がさらに笑みを深くする。
 ワルツが遠くで鳴っている。
 それを聞きながら、土浦は冬海を見上げ、その唇を奪った。



 

2007.05.30up
やっとワルツだ! と思ったのに、ダンスシーン書けませんでした。
そしてとりあえず完結です。
終わってるような終わってないようなですが、もともと連載のつもりではなかったので、ここで一区切りにしておきます。
長いことありがとうございました!
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