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2024.11.22‖
 あの言葉は、本心ですか?
 言われたあの日から、あなたが気になって、仕方ないんです。



「で、ですから、あの…ごめんなさい。すみません…私…」
 俯いて、足元を見る。
 目の前のクラスメイトの顔がまともに見れなかった。
 春のコンクールの後、こうして「おつきあい」を申し込んでくれる人がいる。けれど「おつきあい」できるほど、男の人が怖くなくなったわけではない。
 実際、今でも足が震えている。
 逃げられるものなら逃げてしまいたい。
 けれど、退路を断つように立ちふさがる影に、動くことすらできない。
 怖くて下を向いたまま震えていると、クラスメイトは熱っぽく話しかけてくる。
 何度言っても通じない「ごめんなさい」という言葉を繰り返す。
 それだけしか言えなくて、それ以外に何を言ったら通じるのかなんて考えられなくて。
 誰か助けて、と思うものの、助けを求めることすらできない。
「なぜダメなんだい? 僕のことをどれだけ知っているというのさ。まずは、お互い知り合うところから…」
「しつこい男は嫌われるぜ?」
 畳み掛けられるように続けられる言葉に、聞き覚えのある声がかぶった。ハッとして上げた視界に、背の高い普通科の制服が見える。
 大きな歩幅で近づいてくる土浦に、安堵するどころか逆に焦りを覚えて、笙子は小さく身を縮める。大柄でがっしりした土浦は、もっとも笙子の苦手とするタイプだった。
 土浦のピアノの音は情熱的だ。けれどどこか繊細で緻密。見かけほど、怖い人ではないとわかっていても、まずその見た目が怖い。大抵、笙子に向けられるのは眉をよせ、どこか不機嫌そうな顔だから余計に。
 それなのに先日、優しくされて、泣きついてしまった。
 つらくて苦しくてどうしようもなくて。
 練習室の予約時間が過ぎていたこともわからないくらいに落ち込んでいて、声をかけられて振り仰げば、土浦がいた。「最近のお前の音は窮屈だ」と指摘され、さらに落ち込みそうになったのに、彼は優しく笑ってくれたのだ。自信を持っていい、と。
 泣きたいのを我慢していたのに、我慢ができなくなった。
 大きな手は温かくて、優しくて。触れられて、怖いと思うこともなく、泣いた。
 迷惑をかけてしまったという罪悪感と、暖かな腕に安堵した気持ちと、ごちゃまぜになって、どういう態度を取ったらいいのかわからない。
 それに、聞き違えでなければ……。
 と、そこまで思い出して、これ以上考えるのはよそう、と笙子は首を振る。
「冬海、こういうヤツは優しく言ってもわからないんだって。きっぱり言ってやれよ。お前なんか好みじゃないって」
「えっ、そ、そんな…あの…」
 土浦の出現と、思ってもみなかった発言と、あの言葉に動揺して、しどろもどろになってしまう。
 そもそも好み、好みでない以前の問題で、ただ自分に自信がないだけだ。だから、こんな風に自信たっぷりな土浦を見るたびに萎縮してしまう。
「土浦梁太郎…! あんたには関係ないだろう! 引っ込んでてくれたまえ!」
「一年にあんたよばわりされる筋合いはないんだがな」
 はあ、とため息をついて、眼光強く暴言を吐いた後輩を睨む。
 そうだ、この目。自分に対するプライドの高さ。高潔なまでに上り詰めようとする、その自我の強さ。クラクラするほど眩しくて、苦しくなる。
「お前もいい加減、認めたらどうだ。冬海は、お前なんて眼中にない。わかりきったことだろう。引き際をわきまえないヤツはみっともないぜ」
 笑うように言葉を吐くと、自分より身長の低い、しかも体格差のある後輩を見下ろした。
 長身の土浦は、そのつもりがなくても威圧感を与えるというのに、今は意識して威圧している。これでは余程の強者でもないかぎりは、圧倒されるだろう。
 案の定、笙子の前で逃げ道を断っていたクラスメイトは踏鞴を踏み、捨て台詞を残して駆け出した。
「くそっ。…お、おぼえていたまえ!」
「災難だったな、冬海」
 敗者の捨て台詞など、耳に入っていない様子で土浦は笙子に向き直った。
 正面から見られて、笙子はまた動揺する。
 心臓がドキドキと激しく脈打っていて、まともに思考が働かない。
「あっ、あの…あ、あ、あの…」
 お礼を言わなきゃと思うのに、言葉が出なくて空回りする。
 そんな笙子の様子に気づかないように、土浦が笑った。 
「お前ももっとはっきり断らなきゃ…」
 その笑顔に、一気に血が頭に昇った。頬から耳から、全身が熱を持ったようで笙子はぎゅっと手を握る。
 ここにいたら、ダメだ。
 このままここにいたら、きっとどうにかなってしまう。
 お礼さえ言えていないのに逃げるなんて、呆れられてしまうかもしれないけど、逃げるほかに笙子ができることはなかった。震える声で謝罪して、身体を丸めて、土浦の横を通り過ぎようとする。
「すみません…!」
「って、おい、冬海? ちょっと待てよ!」
 とっさに手首を掴まれる。
「………ッ」
 振りほどくこともできないほど、力強い。
 自分とは違う、大きくて骨っぽい手が、そこを掴んでいる。
 その部分だけ、焼けるように熱い。
「…あ………あの……ッ、つちうら、せんぱい…」
 離してください、の一言が出ず、言葉に詰まる。
 土浦の真剣な目が、こちらを見ている。
 この目が、怖い。
 逸らすことも許されず、捕らわれて、逃げられなくなる。
「またあいつが言い寄ってきたら、俺を呼べよ?」
「………は、はい……」
 ただ逃れたくて、そう返事をすると、土浦の瞳が柔和な光を浮かべる。そして、優しく手首が解放された。自分の腕を胸の前に持ってきて、手首をさするようにすると、土浦が顔を覗きこむようにして尋ねてくる。
「それだけだ。掴んで悪かったな。痛かったか?」
「いえ、あの…。だ、大丈夫、です……。あの、その……、失礼します…!」
 言い捨てるようにして、その場から走り去った。
「おい、冬海!」
 土浦の声が追いかけてきたが、足を止めなかった。追ってくる気配もないので、そのまま森の広場の出入り口まで走る。
 土浦に掴まれた手首が、熱いままだ。
 幸せなような、嬉しいような、苦しいような、知らない感情が胸の中にあって、でもそれを追求するのは怖かった。
 森の広場を抜けて、立ち止まる。
 ああ、またお礼を言いそびれた、と笙子は思った。何かお詫びをしたほうがいいだろうか。今度、日野か天羽に、土浦の好きなものを聞いてみようか、と考えて、気づいた。
 カア、と顔が熱くなる。
 怖いはずなのに、怖くなくて。実は本当は嬉しくて。会えるのが、嬉しくて。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 その日、笙子は家に着いてもずっとそのことを考えていた。


 

2007.03.29up
補完というか、情景描写というか、つっちーがいかに格好よかったかを見せたかったというか…。失敗しまくりで、すみません。
前半の会話はほとんどゲーム中のものままです。すみません…。
後半、冬海ちゃんが逃げようとしたところからが創作です。ゲーム中では逃げられてしまうので。

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