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2018.08.15‖
「今日は、金澤先生のお誕生日だそうですね」
 はにかむように可憐な後輩は微笑んだ。



「えっ? そうなの?」
 あまりの驚きに、箸でつまんでいた卵焼きをポロリ、と落としてしまった。運よくそれは再び弁当箱の中に戻ったが、それに目を向ける余裕はない。
 気持ちよく晴れた昼休み。
 コンクールをきっかけに仲良くなった天羽と冬海とで、音楽科の屋上でお昼を食べていた。
 二人には金澤に片想いをしていると告げていた。ヴァイオリンロマンスは成就していない、と。
 実際には息せき切って階段を駆け上がってくれた人がいるけれど、言いふらすわけにはいかないから秘密。
 最初こそどうしてあんなオジサンに、と天羽が顔をしかめてたりしたけれど、香穂子の本気を知ると二人は親身になって相談に乗ってくれたりして、案外こういうのも悪くないと思っていた。秘密にし続けるには良心が痛むし、かといって公表もできない。
 それにそもそも恋人同士ではない。
 まだ、そんな関係にはなれない。
 お互いの心のうちだけを知っていて、けれどそれは二人にとって触れてはいけないことだった。
 片想いというのは、あながち間違った表現でもない。
 あの恋人未満の想い人については知らないことが多すぎて、何からどう聞けばいいのかもわからず、基本的なプロフィールさえ確認したことがなかった。過去、辛いことがあったのは知っているけど、ただそれだけだ。
 だから、冬海が発したその言葉に驚いたのは、本当だった。
「あれ? 香穂、知らなかったの?」
 きょとんとした顔で、サンドイッチを頬張っている天羽が聞き返した。
「全然知らない! 第一そういうの、どうやって調べるの!」
「そんなの本人に聞くとか、他の先生に聞くとか、教員名簿調べるとか……まあ、イロイロ?」
 敏腕報道部員の天羽は、のんびりとサンドイッチを噛み砕きながらカラカラと笑った。冬海がそんな天羽と香穂子の顔をおろおろと見比べている。
「でもまさか、当日になって知るなんてねぇ」
「す、すみません……。香穂先輩が知らないなんて、私……」
「ううん! 全然冬海ちゃん悪くないし! むしろ教えてくれてありがとね!」
 お昼休みは始まったばかり。お弁当にはほとんど手なんかつけていないけれど、食欲なんてどこかに行ってしまった。
 プレゼントとか、そんなもの用意していなくても、今日があの人の誕生日なら。
「私、先生のとこ行ってくるね!」
 後片付けもそこそこにお弁当箱を持って立ち上がる。
 本当なら真っ先にお祝いを言いたかった。もうそれは絶望的だけど、それでも一言。
 向かうのは、音楽準備室。


「金澤先生!」
 勢いに任せてそのドアを開ける。
 右手にお弁当箱、左手に汗を握って、書類を片手にいつもと変わらず怠そうに机に向かっている金澤に詰め寄った。机の上には、大量のプリントと開封済みのサンドイッチ、缶コーヒー。どうやら仕事をしながら食事をしていたらしい。けれどそんなことに頓着できるほど、大人ではない。
「おー、日野……」
 金澤の声を遮って、ドンと机に手を突いた。
 強く叩きつけすぎてジンジンと手が痛むけれど、気にしない。
「どうして教えてくれないんですか!」
「………何をだ?」
 目を瞬かせて、金澤がのけぞる。
 それはそうだろう。今の香穂子には鬼気迫るものがあった。
「誕生日です! 今日、先生の誕生日なんでしょう?」
「………あ? あぁ、そういえば」
「そういえばじゃないですよ! 年に一回しかないのに。しかも私、今日、冬海ちゃんから聞いたんですよ?」
「年に二度も三度も誕生日があったら、すっげぇ早さで歳喰うよなぁ」
 あははと、おかしそうに金澤が笑う。
「笑い事じゃないですって!」
 頬を膨らませると、金澤が手にしていた書類を置いて頬杖をついた。まだ笑っている。
「この歳になったら、誕生日なんてめでたくも何ともないんだが」
「先生にとってはそうかもしれないけど、私にとっては重要なんです! 急がなきゃって、お弁当も食べないで来たのに」
 金澤は器用に片眉を上げた。
「んで? 今日が俺の誕生日だって聞いた日野さんは、弁当も食わずに何をしにここへ来たんですかね?」
 ぐっと言葉に詰まる。
 机の上から香穂子の顔を見上げる目には笑みが含まれていて、それがからかい半分なのか、ただ純粋に嬉しいだけなのか、香穂子にはわからない。
 金澤は大人すぎて。声にする前に、気持ちを知られているのではないかと疑ってしまう。実際、読心術なんか使えるはずのない金澤が、心のうちまで読めているはずはないけれど、それでも。
 人生経験の差は、どうしたって埋まらない。
 悔しいと思う。
 憎らしいと思う。
 妬ましくもある。
 けれど、それ以上に。
 嬉しくて。
 幸せで。
 笑顔になったのは、無意識だった。
「お誕生日おめでとうございます」
 いてくれるだけで、それだけでいい。
 香穂子は笑う。
 生まれてきてくれてありがとう。
 出会ってくれてありがとう。
 想ってくれて、ありがとう。
「はい、ありがとさん」
 ほんの少し照れたように、金澤の手が香穂子の頭を撫でる。ポンポンと子どもをあやすようにされて、それでも嬉しい。
「プレゼントも何もなくてごめんなさい。でも明日とか……」
「まだ弁当食ってないんだよな?」
 少し情けない風な香穂子の言葉を遮って、金澤が尋ねる。
「あ、はい。そうですけど」
「ここで食ってけ」
「いいんですか?」
「構わんよ」
 優しい声色で金澤が言う。
 とろけそうに甘いその声ににやけながら、来客用のソファに香穂子は座る。
 金澤も食べかけのサンドイッチと缶コーヒーを手に香穂子の正面へ座る。
 差し向かいで座ると、何だか奇妙な感じだ。照れくさいような、くすぐったいような。ほんのり頬を染め、にこりと笑って手を合わせる。
「いただきます」
 開けた弁当箱の中身は慌てて閉じて来たわりには被害が少ない。よかったと思いながらさっきも食べようとしていた卵焼きを半分口にすると、コーヒーを飲んでいた金澤が不思議そうに聞いてくる。
「毎朝お前さんが作るのか?」
「そうですよ。実は今日の卵焼きは自信作なんです」
「ふーん」
 食べかけの卵焼きを自慢するように突き出すと、香穂子の目の前でそれは金澤の口の中へと消えた。
「え? あ、あ、あぁ〜!!」
「……甘いなー」
 咀嚼して、指で口の端を拭い、それを舐める。その仕草にドキっとしてしまうなんて、相当脳がやられている。
「ごっそさん」
「……………」
 食べかけの卵焼きを奪われて唖然とする香穂子に、金澤は口元をニヤリと歪める。からかうときの、あの表情だ。
「誕生日プレゼントだろ?」
「………ッ」
「うまかったよ」
 みるみる赤くなる香穂子を見て、金澤が優しく笑う。今度は本当に優しく愛おしげに微笑まれて、顔を上げられない。直視できずに俯く香穂子の頭に、また金澤の手が乗せられる。
 大きくて、骨張った手。撫でられると安心して、心地いい。
「…………じゃあ、今度、先生のぶんも作ってきたら、食べてもらえますか……?」
「ココが空いてたらな」
 上目遣いで尋ねれば、困ったように金澤が答えた。

 音楽準備室で、内緒の時間。
 今度はどんなお弁当を作ってこようか。




超突発的金澤紘人誕生日企画(仮)様出品作品。
先生の誕生日が過ぎても(仮)が取れることのなかった企画(笑)。素敵な空間でした。
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