冬海ちゃん、お誕生日おめでとう!
というわけで、みんなに祝ってもらったよ!
冬海笙子お誕生日企画『最初の一歩』さま提出作品
というわけで、みんなに祝ってもらったよ!
冬海笙子お誕生日企画『最初の一歩』さま提出作品
11月3日。
日野と天羽に呼び出され、屋上の扉を開いた途端、襲ってきた破裂音に笙子は身体を硬直させた。
目の前を、ひらひらと紙のリボンが舞う。その向こうでは、クラッカーの抜け殻を手にした日野と天羽が満面の笑みを浮かべていた。
「お誕生日おめでとう、冬海ちゃん!」
ふたりから同時にその言葉を言われ、笙子は目を丸くする。
「え……?」
「今日、お誕生日でしょう? 学校は休みだけど、当日にお祝いしたくて」
「呼び出してごめんね」
日野と天羽に手を引かれ、笙子はふたりの先輩を交互に見比べた。しかし、日野と天羽はいまいち現状を飲み込めていない笙子に笑いを返すのみで、詳しく説明をしようとはしない。
ふたりに手を引かれ導かれた先、学院の音楽科棟の屋上は、笙子も足繁く訪れる場所だ。青空に向かって開かれたそこは、四方を柵に囲われ、その内側の開けた場所に邪魔にならない程度に植物が置かれている。生徒が休憩できるように設置されたベンチは、機能性を重視したもので華美ではなく、殺風景といえば殺風景な場所だった。
だが、今日はそれが様変わりしていた。飾り気のないベンチのまわりには所狭しと花が飾られ、傍らには真っ白なレースのクロスと色とりどりのリボンに覆われた大きめのテーブルが置かれていた。テーブルの上にも花が飾られ、ごちそうが並び、そのセンターには薄いピンク色のクリームでデコレーションされたケーキが鎮座している。ケーキの上には、16本のろうそく。テーブルから顔を上げれば、日野と天羽の向こうに見知った顔が覗いた。
「せ、先輩方…、それに志水くんも……」
予想外の人たちの姿を認め、笙子は思わず声を上げる。学内コンクールで知り合った月森と土浦、志水、それにこの二学期になってから普通科に転校してきた加地が、視線の先で楽器を構えている。何を合図にしたのかわからなかったけれど、唐突に奏でられはじめたのは「Happy Birthday to You」。弦の上に乗せられた日野と天羽の歌声に、笙子はようやく状況を理解しはじめる。
わざわざ自分の誕生日を祝うために、皆がこうして集まってくれたこと。
休みであるのは、笙子だけではない。他の人にとってもそうであるのに、笙子がここへ来る前までに、こうして屋上を飾りつけて、演奏の準備をしてくれて、自分を祝おうとしてくれているのだ。
それが嬉しくて、言葉もない。
「お誕生日おめでとう!」
曲が終わり、もう一度日野と天羽に言われて、笙子の涙腺はとうとう壊れた。嬉しさに涙をこぼしながら、笙子は精一杯笑おうとする。
「あ、ありがとう、ございます…。すごく、……すごく、嬉しいです」
上手に声を出すことができなくて、つかえながら伝えた言葉に、加地が一歩を踏み出した。
「喜んでもらえたみたいでよかった」
でも、と近寄ってきた加地の差し出したハンカチに目元を拭われる。そのままハンカチを手渡されて、加地を見上げるとウィンクを返される。
「涙は拭いてね」
その慣れた仕草にどきりと胸が高鳴って、恥ずかしさに俯きながら頷くと、呆れたような月森と土浦の溜め息が聞こえてくる。くすくすと笑う日野と天羽に促されて、笙子はおずおずとセッティングされたベンチへ腰を下ろす。目の前にあるケーキの上のチョコプレートには、笙子を祝う文字が踊っていた。
「このケーキとごちそうは、土浦くん作」
「え?」
日野が片眉を上げながら、おもしろそうに告げる。テーブルの上を埋め尽くす料理は、デリバリーしたのだと言われても信じてしまいそうなできだ。ケーキもかわいらしく作られていて、あの強面の土浦が作ったとは思えない。
「プレゼント、何がいいのかわからないからって」
「おい、日野!」
暴露した日野に、土浦は慌てて声を上げる。笙子が思わずそちらを向くと、恥ずかしいのか顔を赤くした土浦が料理を取り分けるための皿を持ったまま、ぷいと顔を背けた。珍しい土浦の様子に、笙子は目を瞬かせてしまう。
「お花調達してくれたのは月森くん、飾りつけは加地くん、楽器の演奏をしようって言ったのは志水くん」
「みんなでお祝いしたかったのは、私と日野ちゃんね」
日野の言葉を引き継ぐように、天羽が告げる。
「休みの日に屋上使えるように理事長を説得してくれた金やんにも、お礼言わないとねー」
「みんな、冬海ちゃんのお祝いがしたいって、集まってくれたんだよ」
日野の言葉が胸に沁みて、喜びにまた涙がこぼれそうになった。けれど、今日は自分を祝うための日だ。涙をこぼさないように、笙子はにこりと笑う。
「本当に嬉しいです。ありがとうございます」
その笑顔に、周囲が一瞬息を飲むなか、志水が一歩を踏み出した。
「今、火をつけます」
その手には柄の長いディスポーザブルライターが握られていたのだが、志水が何度やっても火はつかない。苦笑しながら加地が作業を引き継ぐと、あっという間に16本のろうそくに火がともる。
その横では月森がグラスに飲み物を注ぎ、天羽がカメラの用意をしている。手持ち無沙汰な自分の身の置きどころに困っていると、バタン、と大きな音とともに屋上の扉が開いた。
「間に合った!?」
駆け込んできたのは火原で、その後ろから大きな花束を手にした柚木も姿を見せる。
「ひ、火原先輩。柚木先輩も…」
「今からろうそく消すところです」
加地がケーキを指し示しながら火原の問いに答えれば、辺りを明るくするような笑顔で火原が笑う。
「よかったぁ…! せっかくのお誕生日だもんね。みんなと一緒にお祝いできて、すっごく嬉しいよ!」
にこにことこちらに向かって歩いてくる火原と並んで、柚木も歩を進める。
「冬海さん、お誕生日おめでとう。これは僕と火原から」
柚木の手にあった大きな花束を差し出されて、笙子は両手いっぱいのそれを受け取った。
「あ、ありがとう、ございます」
火原も柚木も、きっと受験で忙しい。その間を縫って、彼らもここへ足を運んでくれたのだと思うと胸がいっぱいになる。また泣いてしまいそうになるのを堪えて花に顔を伏せると、月森が言った。
「早く吹き消さないと、ろうそくが短くなってしまう」
言いながら月森はヴァイオリンを構え、音を紡ぎ出す。もう一度「Happy Birthday to You」の旋律が流れ、その音に他の皆が歌を乗せ、笙子を促す。曲の終わりに、震えるのどで空気を吸い、ふ、と一息にろうそくの火を吹き消した。
同時に大きく拍手を贈られ、あたりをぐるりと見渡すと、こちらを見守るあたたかな視線が降り注いだ。
「誕生日、おめでとう」
皆の声が揃って、笙子に届く。何て幸せな日だろうかと幸せで胸をいっぱいにして、笙子は涙まじりの顔を綻ばせた。
土冬のネタも、女の子同士の話もネタはあったのに、オールキャラ気味で頑張ってみたもの。
やっぱり大人数は書くの大変でした。月森とかしゃべんないしな!
そして何より大遅刻での提出でございました。反省。
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2009.11.03‖コルダ:その他