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2024.11.22‖

もう一個発掘。



 夢を見ている。
 違う。夢だと思い込もうとしている。
 手の中にある細い腕が、現実でなければいいと考えている。
 金澤は、それを自覚していた。
「……先生?」
 怯えを含んだか細い声に、頭がくらくらする。
 彼女に駄目だと告げたのは、自分自身だった。彼女は学生で、自分は教師で。だからこれ以上は駄目だと、そうわかっているのに。
 手のひらは、彼女の白い細い腕に吸い付いてしまったように離れない。
 音楽準備室にやってくる生徒は少なくないというのに、こんなときに限って、誰もやってこない。
 誰でもいい。この呪縛から解き放ってくれるのなら。
 そう願いながら、誰も来ないでくれと矛盾したことを考える。
 指がたやすく余る、細い細い腕。この細い腕から、あの光と力に満ちた音が生まれるのか、とどこか冷静な頭が考えた。
「どうしたんですか?」
 怪訝そうに日野が尋ねる。それに答えることができずに、金澤は目を伏せ、日野の視線から逃げた。
 苦しくて苦しくてたまらないのは、日野をひどく愛しく想っているからだ。
 この気持ちが夢ならば、今ある現実よりもずっとずっと楽だろう。感情は過去に凍り付いたはずだったのに、日野がそれを揺り動かした。一度動かし方を思い出してしまうと、元に戻すことは難しかった。パソコンのように、ボタンひとつでどうにかなるものではなかったから。
 日野を大事に想えば想うほど、自分の立場が恨めしかった。日野と同じ立場の学生に嫉妬したりして、見苦しい。いい大人の仮面を被って、何気ないふうを装うのは、もう疲れた。この場に引き止めて、閉じこめてしまえるのなら、どれほどいいだろう。
 そんなどす黒い独占欲を悟らせないために、金澤は大きく息を吐いた。
 張りついて離れようとしない手を、どうにか細い腕から引きはがして、無理矢理に笑顔を作る。
 そうしなければ、日野を抱きしめて壊してしまいそうだった。柔らかくて細くて小さな身体の温度を確かめたくなって、衝動に突き動かされるままに貪ってしまいそうだ。
 静かに息を吸って、金澤は告げた。
 明らかに嘘だとわかる言い訳に、日野は少し寂しそうに笑った。
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