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2018.11.22‖
遠恋中。



 校門を出て、かなでは冷たい風に身震いをした。吹き付ける風は、すっかり冷たいと呼べるものになっている。
 夏のはじめに星奏学院に転校してきて、もう数ヶ月が過ぎていた。随分、こちらの生活にも慣れてきた。でも寂しい、と思ってしまうのは仕方がない。それは郷愁ではなく、恋情だったから。
 寮への道を歩きながら、夏休みに出会った想い人を脳裏に浮かべて、かなでは小さく溜め息を吐いた。
(会いたいなぁ…)
 言葉にすると我慢できなくなりそうで、心の中だけで呟く。
 八木沢は受験生だし、ふたりは横浜と仙台で離れて生活しているし、毎日学校だってある。会いたいと言うだけなら簡単だけれど、実際にそうするには結構な労力がかかる。だからなのか恋しさは募るし、苦しさは増えていく。
 夏の間、当然のように毎朝挨拶をして、言葉を交わして、笑い合っていたのがどれほど贅沢だったのか。八木沢と離れて、かなでは身近に八木沢がいないことを、ひどく寂しく感じていた。優しく穏やかなあの笑顔は、ニアからもらった写真の中にしかない。
 はぁ、ともう一度大きく溜め息を吐いて、かなでは俯いた。ヴァイオリンケースが目に入って、少し顔をしかめる。今日は練習室で練習をしようとしたのに、こんな調子で練習にならなかった。下校時間いっぱいまで練習をすれば、響也かニアと一緒に帰ることができるのだけど、今日はそうもいかなくて、一人でとぼとぼ家路をたどる。
 律も今日は榊と一緒に勉強をするのだとか言っていた。まだ図書館にいるのかなと、ぼんやり考える。勉強漬けになっている律や榊は、八木沢と同じ受験生だ。彼らが忙しくしているのを目の当たりにしているから、余計に連絡を取りづらくなっていることは否めない。
 それでも八木沢は、時間を見つけてはメールや電話をくれる。こちらからだって、他愛のないことでメールを送ったりすることもある。受験生の八木沢の邪魔にならない範囲で、遠距離恋愛をしているふたりが考えつくすべての方法で、連絡を取り合っている。
 だけど、寂しいのだ。
 会えないというだけで、こんなに寂しい。
 八木沢は、首都圏の大学を受験するつもりだと話していた。だから、あともう少し我慢すれば、ふたりの距離は今よりも近いものになる。もう少し頻繁に会うこともできるようになるだろうし、もしかしたら八木沢はかなでの受験勉強だってみてくれるかもしれない。
 でも、それは今ではない。
 今、かなでが抱えている寂しさとか苦しさとか悲しさを、解消してくれるわけではない。
 わがままだ、とわかっている。だからこそ八木沢には言えないし、一人でこうして抱えているしかなかった。寂しいとか苦しいとか会いたいとか告げてしまえば、八木沢は気にしてしまうに違いないから。
 八木沢の受験が終わるまでは、いらない気遣いをさせたくない。
 だけど、会いたい。
 ぐるぐると堂々巡りをはじめる思考を振り切るように、かなでは前を向く。学校と寮は目と鼻の先で、かなでは、もう寮の門が見えるところまで来ていた。
 かなでの視界には、冬の早い夕暮れ。そこに人影が浮き上がる。その見覚えのあるかたちに、かなでは目を瞠った。瞬きを何度もする。
 なんでとか、どうしてとか、聞きたいことはあったけれど、それよりも心を満たしたのは喜び。
 会いたい、と何度も何度も願った人。
「八木沢さん……!」
 坂を駆ける。声にこちらを向いた顔は、写真の中よりもずっとずっと輝いて見えて、かなでは泣きそうになる。
「小日向さん、おかえりなさい」
 夏の毎日と変わらない、穏やかな声がじんわりと染みる。電話越しの声ではなく、本物の、八木沢の声。
 驚いて、会えたことが嬉しすぎて、脳みそが働いていなかった。そういうことにしておこう、とかなでは思う。勢いのまま飛びついて、鑪を踏んだ八木沢の首にぎゅうっと力いっぱいしがみつく。
「こ、小日向さん……!?」
 慌てふためく八木沢の声も、耳に入らない。
「……会いたかったです」
 メールでも電話でも、ひとりごとでも、言いたくても言えなかった本心がこぼれ落ちる。しがみついた腕から、ぬくもりと鼓動が伝わってきて、確かにこの人はここにいるのだと知らせてくれる。夢じゃない、とかなでが呟くと、背に回った八木沢の腕に引き寄せられた。自分からしがみついたくせに、抱き寄せられれば途端に羞恥が押し寄せてきて、かなでは顔を真っ赤に染める。その耳元に、優しく、けれどはっきりとした八木沢の声が届く。
「僕もです」
 あなたに会いたかった、とかすれるような声で告げられれば、ただでさえ熱い顔がさらに熱を増していく。
 嬉しくて、かなでは八木沢に抱きつく腕に力をこめた。



2010.03.23up
八木沢さんは受験の関係で上京中。
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2010.03.23‖コルダ3
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