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2024.11.22‖

#09

こんなに都合のいいことがあるはずないのは理解している!
間違った知識と妄想と勢いだけで書いているよ!
ちなみに土浦はにせもの!!!



「冬海」
 本に目を落としていた土浦が、唐突に笙子を呼んだ。その声に、笙子も譜読みをしていた楽譜から目を上げる。
「はい?」
 今日は土浦と一緒に、笙子の教室で、それぞれ思い思いのことをしていた。
 大学では指揮科を目指している土浦は、音楽科に転科してから読書量が増えた。今日も何冊かの本を抱えて教室にやってきたほどだ。それを読む土浦に隣り合って、笙子はオーケストラ部で演奏する予定の楽譜を読んでいたのだった。
 こんなふうに土浦と笙子がふたりでいることが公然の事実になったのは、新年度が始まってからだった。実際には、年が明ける前にはふたりの関係は変化していた。ただの先輩後輩の関係から、恋人同士へと。
 だから、ふたりきりになれる場所を探したりもするのだが、そう都合のいい場所というのは案外ないもので、学校内では練習室くらいのものだった。ただ、今日はお互いに楽器の演奏ではなく別のことをしたかったので、最初は音楽棟の屋上に集合の予定でいた。
 だが梅雨時期の空は、生憎の雨模様で、結果として教室を使うことになった。図書室を選ばなかった理由は、静かにという暗黙のルールのせいで、会話がしづらいというだたそれだけだ。幸運なことに、雨の日の教室には、クラスメイトの姿もなく、ふたりは悠々と広い空間を使うことができている。
 このふたりきりという状況が不自然でない関係になって、もう半年が経とうとしている。半年という期間は、笙子の意識を徐々に変えていった。土浦と付き合うようになってからも、笙子は男の人が苦手だし、人見知りも激しいけれど、土浦に限っていえば例外だった。
 土浦は自分のテリトリー内に入ったものに対しては、ひどく面倒見がよかった。最初こそ、笙子はその中に入れないでいたけれど、今では大事にしてくれていることを知っている。
 多分、土浦にとって、笙子の速度は遅すぎてイライラするものだろう。それでも土浦は足を止めて、振り返って、急かすことをせず待っていてくれる。ふとした瞬間にそのことを実感できるのが、笙子はたまらなく嬉しかった。だからこそ、今の関係を築くのに足る土浦への親愛と信頼を深めることができたのだ。
「両手出してみてくれるか」
「え? は、はい…」
 だから、突然の土浦の要望にも、笙子は何の疑いもなく両手を差し出した。そんな笙子の様子に、土浦は困ったように苦笑した。
「……これは、喜んでいいところだよな? でも、お前もう少し疑うってことをしたほうがいいぜ」
「え?」
 土浦の言葉に、笙子が瞬きしたときだった。
 しゅるり、と衣擦れの音を立てて、土浦は首のスカーフを抜き去った。何をするのかと目を丸くする笙子の手首を、土浦はそれで軽く縛る。
「……! つ、土浦先輩…ッ!?」
 驚きに、笙子は思わず立ち上がる。だが、土浦は座ったまま、笙子を見上げた。土浦は何と表現すればいいのかわからない表情をしていた。困っていたのか、それとも安堵していたのか。笙子は困り果てて、土浦を見下ろした。
「俺だから、なんだったら嬉しいけどな」
 骨張った大きな手に、縛られた両手を撫でられて、背筋がぞくりとする。笙子は視線をうろうろと彷徨わせて、最終的に俯いた。何がどうなっているのかわからない。
「あ……、あの、は、外して、ください……」
「ああ、そうだな。いいぜ」
 掻き消えてしまいそうな笙子の懇願を、土浦はあっさり頷いて答えた。え、と笙子が顔を上げると、その視界の中で、土浦は意地の悪い顔で笑う。
「でも、スカーフを取っても、お前の手は『動かない』」
 言いながら、土浦は本当にスカーフを笙子の手から外した。これで自由だ、と笙子が両腕を身体の後ろに隠そうとするが、土浦の言葉どおり、合わされた手首はびくともしない。
「………え?」
 絶望的な気持ちで、笙子は土浦を見遣る。すると、土浦も驚いたように笙子を見ていた。だが、それも一瞬で、土浦はひどく嬉しそうに頬を緩めた。
「まさか、本当にかかるとはな。知ってるか? こういうのって、信頼してる相手同士じゃないと、かからないんだってさ」
「………!」
 先ほどまで読んでいた本の表紙を土浦は差し出した。『集団心理の理論と実戦』というタイトルのその本を、差し込んだ指をガイドに開いて机の上に乗せる。
 みるみる顔に血を昇らせていく笙子に向き直って、土浦は優しく指を伸ばした。動かないままの手首をそっと撫でられて、びくりと身体が震えた。ぞわぞわとした感覚が背を駆ける。
「せん、ぱ……」
 いやいやと子どものように首を振れば、大きな手は頬を滑る。泣きそうになりながら土浦の目を見つめると、真剣に見つめ返された。凛々しい顔が近づいてきて、心臓がバクバクと大きく脈打つ。
 視線を逸らすこともできない中で、整った薄い唇が動いて静かな声が空気に乗った。届いた音に、息が止まる。
「お前が俺にキスしたら、この手は動くようになる」
 呆然としていると、頬を抑えた手に引き寄せられて、額と額が触れ合った。
「なあ、どうする…?」
 かすれて艶めいた声に、心臓が壊れそうになる。笙子は胸を抑えてぎゅっと目を閉じ、覚悟を決めた。


多分ね、ヨコハマは6月で衣替えなんですけど、そのあたりは忘れていただけるとありがたいです。
はっきりと何月とは書いてないけど、年明け前から付き合いはじめて半年とか、季節感丸出しな梅雨とかいう単語を使ってしまったので、想像できる月といえば6月ですよねー。
でも、衣替えしちゃうと縛るものがなくなっちゃうんで! 音楽科の男子生徒制服はパジャマなんで!
すみません、そのへんは海のように広い心でスルーしてください。

だって、このネタずっと書きたかったんだよ! 本当はえろで。
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