ニアとかなでが庭でキャッキャしてる話
打ち水をするなら朝か夕方の涼しいうち、と教えてくれたのは八木沢だった。至誠館の面々と昼食を食べたあとのことだった。新が熱いと騒ぎ出し、水を撒いたら涼しくなるのでは、と目を輝かせた。今にも水まきをしそうな新をやんわりと抑えこみながら、八木沢は首を振って教えてくれたのだ。
それを思い出しながら、かなでは庭へ出る。まだ朝方だというのに、すでに暑くなりそうな気配が漂っている。8月に入ってからは毎日毎日昼も夜も暑くて敵わないので、水を撒くと結構涼しくなりますよ、という八木沢の言を信じて、かなでは水まきを実行しようとしているのだ。
蛇口を捻ると、ホースから水が勢いよく飛び出していく。
寮の庭は広くて、植物もたくさん植えられている。だから多分、市街地と比べればずいぶん涼しいとは思うのだが、かなでの実家に比べるとまだ暑い。かなでは水滴がほとばしるのを見ながら、広い範囲に水を撒き散らしていく。青々と力強く枝を伸ばしている梢の向こうで、濃くなっていく空の色を見ながら、今日も暑くなるんだろうな、とかなでがホースの向きを変えたときだった。
「………ッ!!」
人の声が聞こえて、ホースが向いている先の木陰が揺れた。かなでは驚きにホースの先を跳ね上げる。ガサガサと物音を立てながら姿を現したのは、水に濡れたニアだった。
「ニ、ニア…! ごめん! 大丈夫……じゃ、ないよ、ね……?」
水を出しっ放しのホースを持ったまま、おろおろと狼狽えながら近づくと、濡れた髪を掻きあげて、ニアはきれいに整った片眉を上げてみせる。
「………見てのとおりだな」
声が怒っているように聞こえて、かなではしゅん、と顔を曇らせて項垂れる。
「ご、ごめんね。あの、誰もいないって思ってて……」
濡れてしまったニアを心配しながら謝罪すると、ニアはかなでに笑みを向けた。
「まあ、普通はそうだろうな。部屋が寝苦しいからといって、こんなところで寝ていた私も悪かった。……が」
次の瞬間、きらりと、その大きな瞳がいたずらに輝く。あ、と思う間もなく、ニアに手からホースを奪い取られ、かなでが驚いて瞬きをひとつする間に、ホースの先がこちらを向いた。
「………キャッ!」
突然襲ってきた水の奔流に、かなでは悲鳴を上げた。水から逃げようと右往左往するかなでに、ニアは声を上げて笑う。
「どうだ、気持ちいいだろう」
「気持ちいいっていうか、冷たいよ!」
抗議するかなでを標的から外して、ニアは潰したホースの先を空に向けた。空高く舞い上がった細かな水しぶきは、雨のように降り注ぐ。ニアは空を仰いで、目を閉じた。
「冷たくて、気持ちがいいじゃないか」
陽の光に水がきらめいて、ニアを取り囲む。落ちた水滴が、ニアの薄手の服を濡らして、肌を透かしていく。そのさまに、妙にドキドキしながら、かなではニアと同じように空を見上げてきらめく水滴を身体に受けた。
額に、頬に、まぶたに、唇に。
肩に、胸に、腕に、足に。
降り掛かる水の感触は冷たくて気持ちがいい。ニアの言ったとおりだ、としばらくその感触を堪能していると、何だか楽しくなってきた。首をめぐらせてニアを見遣れば、いたずらめいたアメジストの瞳とぶつかった。
ニアは濡れに濡れている。そんな姿に、あはは、とかなでは声を上げて笑った。
「気持ちいいけど、もうずぶ濡れ! こんなに濡れちゃったら、着替えなきゃ駄目だよね」
水滴の落ちる自分の姿を矯めつ眇めつするかなでに、ニアも頷いた。
「そうだな。これではラウンジにも行けない」
「うん。じゃあ、私タオル持ってくる」
「ああ、悪いな」
蛇口を捻って水を止めたニアを、かなでは振り返った。
「でも」
「ん?」
瞬きをしながらニアが首を傾げる。それに笑いかけながら、かなでは告げた。
「楽しかったから、またやろうね」
ニアかなっつーか、女の子がふたりで遊んでるだけっていうか。
このふたりはマジかわいいと思います。
そんでもって、私がニアをかわいいと思っているので、どうしてもニア←かなでっぽくなってしまう…。
あと、かなではもっと天然だと思います。
私が書くと、何かかたくなっちゃうんだよなぁ…。かわいいです。かなでもニアもかわいいです。
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2010.05.14‖コルダ3