忍者ブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2024.11.26‖
呼び名変更イベント



 ほんの少し開いたドアからは、何の音も漏れていなかった。練習室の空き部屋を探していた土浦がドアの隙間から覗きこむと、窓際に椅子を寄せ、組んだ両腕の上に顔を乗せて、ぼんやりと外をながめている冬海笙子の姿を見つける。
 土浦と冬海は恋人同士だった。そうなったのは一年ほど前のこと。けれど、こんなふうに物思いにふける後ろ姿を見るのははじめてだな、と土浦は思った。
 冬海は窓の外をぼうっと見るばかりで、こちらにはまったく気づいていない。後ろ姿を見つめる土浦のなかに、ふと悪戯心が沸きあがる。
 驚かせてやったら、どんな顔で振り向くだろうか。
 定番だけれども大声を出そうか、それとも目隠しをしてしまおうか。そんなふうに考えながら、ドアの内側に身体を滑りこませ、近づいて声をかけようとした、その瞬間。
「…梁太郎、先輩」
 ぽつりと冬海がつぶやいた。
「………え?」
 思わず素っ頓狂な声が出る。驚かせるつもりが、こちらが驚かされてしまった。窓にでも姿が映っていたのだろうか。
 しかも下の名前で呼ばれるのははじめてで、土浦はじわじわと心拍数が上がっていくのを感じる。それは何度頼んでみても叶えられなかった望みだ。恥ずかしさに真っ赤になるさまがかわいくて、最近はからかうのが目的の半分になってしまったそれ。予想外のことに、頭がついていかない。
「え……っ?」
 そして冬海は土浦以上に驚いたように振り返った。その瞳は土浦をとらえて、みるみる見開かれていく。
「………ッ!!!」
 ガタン、と大きな音を立てて冬海は椅子から立ち上がった。逃げる場所もないのに後退さろうとする。
「す、すみません…!」
 ばっと頭を下げて、悲愴な声で謝る冬海の首筋は赤い。カタカタと小さく震える肩に手を置けば、びくりと大きく身体が揺れる。
「笙子?」
 呼ぶ声に冬海はたえられないと頭を振る。肩をつかむ手から逃げるために身体をよじらせるのを、少しだけ乱暴におさえつけて顔をのぞきこむ。
「こっち向け、笙子」
 強い土浦の声に、拒む動きが一瞬止まった。そして、ゆっくりと顔が上がり、おどおどと視線がこちらに向く。
 真っ赤な顔。涙に潤む瞳。手のしたの華奢な肩。小刻みに震えるのが伝わってきて、喉が鳴る。ふ、と見つめている大きな瞳に影が映った。それが自分の影だと気づいたのは、やわらかな唇に触れてから。
「……もう一回、呼んでみろよ」
「………ッ、むり、です……ッ」
「無理じゃない。もう一回」
 触れただけの唇を離して懇願すれば、無理だと首を振るのに、土浦は優しく諭すように強要する。ほら、と強くうながして唇を触れ合わせれば、そこが震えて泣きそうな瞳が土浦を見上げた。言うべきことばを懸命に声にしようとするさまがかわいい。
 困ったように眉根を寄せて、唇を何度も開閉させ、できない、と諦めて首を振る。それでも土浦がじっと見つめて待っているのに細い喉を上下させて、冬海は強く手を握りしめた。ぎゅっと目を閉じて、冬海は恥ずかしさに悶えるように口を開く。
「……りょ、…たろう……せんぱい……」
「もう一回」
 呼ばれて、頬がだらしなく崩れた。彼女の声で呼ばれる幸福感をもっと味わいたくて、土浦はそれをもう一度と乞う。ふるふると頭を振る冬海の耳が真っ赤だ。それに触れる。びくりと身体が震える。構わずに唇を寄せて低く囁いた。
「呼べよ」
 土浦の声に冬海がまた大きく震えた。土浦は小動物を追い込んでいくような高揚感を抑えて、音を立てて耳に口づける。抱きしめたまま待っていると、肌を真っ赤に染め上げた冬海が泣きそうな声で自分を呼ぶ。
「…りょう、たろう、せんぱい……」
「もう一回」
「梁太郎先輩……」
「うん」
 冬海が名を呼ぶたびに口づける。恥ずかしそうに染まった頬は真っ赤で、触れた箇所はひどく熱い。
「やっと呼んだな」
 安堵のため息とともに静かに告げると、ぎゅうっと力いっぱい閉じられていた瞳が揺れながら土浦を見た。目尻にたまる涙を指で払い、土浦は冬海の頬を両手におさめて、こつりと額を触れ合わせる。名前を呼んでほしいという願いのなかには、冗談が半分、そして本気が半分。呼ばれることが予想外にうれしくて、土浦は笑み崩れた。
「あ……、あの」
「うん?」
 冬海がおそるおそる口を開くのに、至近距離のまま視線をやれば、申し訳なさそうに半眼を伏せて彼女は小さく震える。
「ずっと、……ずっと、呼べなくてごめんなさい」
 伏せられていた瞳がこちらを見て、震えて囁く声が名前を呼ぶ。
「梁太郎先輩」
 一字一字を大事そうに、かすれるような声につむがれて、身体のなかの血が一気に温度を増した。ぎ、と奥歯を鳴らして、土浦は熱い息を吐き出す唇に食らいつく。
「………ン!」
 ぴくりと冬海の背がはねて、胸に両手がしがみついてくる。行為を拒絶されないことに優越感と満足感を覚えて、土浦は熱く甘い口中を貪るのに没頭した。



2011.04.08up
いつもと違う呼び名変更イベントでした。
冬海ちゃんからのアプローチは、土浦の心臓に非常に悪い気がするね!
PR



← マンゴープリン2 #13 →


金色のコルダ中心二次創作サイト

top
text
├ コルダ
│├ 土浦×冬海
│├ 金澤×日野
│└ その他
├ コルダ3
│├ NL・ALL
│└ BL
TAKUYO
その他
tresure




Powered by Ninja Blog Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]