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2024.11.22‖
東金×八木沢



 今日も暑くなるだろう。
 すでに空の色は濃くなりはじめていた。朝の日課として菩提樹寮の庭で水まきをしていた八木沢は、突然目の前に生えてきた両腕にぎょっとした。いや、それは生えてきたのではなく、ただ単に八木沢の死角から伸びてきただけなのだが、そんな気配など一切感じていなかったのでひどく驚いたのだ。水を撒いていたせいかもしれない。水音は近寄る足音を消し、八木沢の注意力も奪っていたから。
 八木沢が驚きに固まっているうちに、腕はそのまま八木沢の身体を抱きしめるように動いた。強く背中に抱きつかれて、八木沢はやっと固まっていた身体を動かすことができた。驚いた心臓を落ち着かせるために小さく息を吐き、そして声を発するために吸う。
「こら、水嶋。駄目だろう」
 じゃれるようなスキンシップには心当たりがあった。ブラジル帰りの水嶋新は、それこそ老若男女、ところ構わず抱きついてくるのだ。だからその腕の持ち主は新だと信じて八木沢は首だけで振り向いたのだが、視界にうつる色は予想と違っていた。ふわりとしたオレンジではなく、輝く金。ひた、と見つめる目は赤く、不機嫌さを隠しもしない。
「………千秋?」
 八木沢がぽろりとこぼしたのは、その幼なじみの名前だった。予想外の人物に、ぱちぱちと瞬きをする。
「あれ、君さっき出ていかなかった? ソロ決勝の練習をするんだろう?」
 八木沢はたしかに、そんなことを言いながら寮の玄関を出ていく東金の姿を目撃していたのだ。不思議に首を傾げると、東金は八木沢の背中に張りついたまま息を吐いた。
「お前に聞きたいことがあって戻ってきたのに、気づかなかったのはお前だろう」
 何度呼んだと思ってる、と苛立ちを隠しもしないのに、八木沢はもう一度瞬きをする。
「え、そうだった? ごめん。全然聞こえなかった」
 謝りながら、八木沢は自分を抱きしめる腕がさわさわと身体を撫でていくのに気づく。東金の腕は、全然八木沢の身体を解放しようとしないくせに、手だけは器用に服の上を動き回る。くすぐったさを覚えて、八木沢はその手を押しとどめた。
「千秋、くすぐったいよ。離して」
 笑いまじりに訴えれば、腰をぐっと掴まれて、余計に強く抱きしめられた。何だ、と八木沢が身体を捻る前に、東金は憤然として尋ねた。
「ユキ、お前細すぎないか?」
「は?」
「………やっぱり細い」
 ぎゅう、と腰回りを確認するように腕を回されて、八木沢は困惑した。
 確かに自分は火積や榊のようにがたいがいいわけではないが、かといって細すぎる、というほど細いつもりはなかった。実際、細いというのなら水嶋のいとこの悠人や天音の七海のほうが細いのではないだろうか。自分よりも小柄なふたりを思い出しながら、八木沢は首を傾げた。
「そんなことはないよ。僕は標準サイズだと思うけど……」
 火積のようにがっしりはしていないけどね、と考えていたことをそのまま口にすれば、背後の東金がぴくりと反応したのがわかった。
「…………」
 だが、特に口を開くこともなく、しばらく黙ったまま八木沢の腰をつかんでいた東金は、唐突に身体を離した。やっと身体の自由を取り戻し振り向いた八木沢に、東金は怒ったように指を突きつけた。
「やっぱり細い! いいか、今日の昼は空けておけよ。神戸からうまい鰆の西京漬が届いたんだ。お前は、俺と昼飯を食うんだ。絶対だぞ。くれぐれも至誠館のやつらなんかと飯食ったりするなよ!」
 言い放つと、八木沢が返事をする前に、東金はずかずかと寮の門に向かって歩を進めていく。その後ろ姿を見ながら、八木沢の頭の中には疑問符ばかりが浮かんでいた。東金は何かに怒っているようだったけれど、あんなに怒らせるようなことにはまったく心当たりがなかったのである。
「呼ばれて返事をしなかったのは悪かったけど、あんなに怒ることないのに」
 東金がいつも一緒にいられる至誠館の面々に嫉妬したなどとは露知らず、八木沢はぽつりと呟いて水まきを再開したのであった。



セクハラな東金さんと、全然意識してない八木沢さん。
でも、ふたりとも無意識。
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