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2024.03.29‖
11月第1週金曜日



「それで、何をするのか決めたか?」
 冬海の誕生日を祝いそびれた土浦は、週末になってそう尋ねた。これから練習室で、アンサンブルの練習をはじめようとする放課後のことだ。ふたりきりでの練習なので、冬海がクラリネットを組み立てている間、土浦は手持ち無沙汰なのである。ピアノを背に椅子に座って、膝に楽譜を乗せ、土浦はてきぱきとクラリネットを組み立てる冬海を見た。
 すると、冬海はその手を止めて、うかがうように土浦の顔を見た。
「何でもいいぜ?」
 言うのをためらっているであろう冬海の内心を察して土浦が優しく笑うと、彼女はほんの少しうつむいて、頬を染めた。
「あ、あの……、私、いろいろ考えたんですけど……、その……」
 いつもに増して言いよどむ冬海に、そんなに自分が嫌がりそうなことなのだろうか、と土浦は眉を寄せる。
 冬海は自分の気持ちを伝えることを苦手としているが、それは自分の希望を言葉にできないというよりは他人のことを考えすぎて言えない、と言い表すのが正確だ。だから、ここまで言いよどむのは、土浦が嫌がりそうだと考えているからだろう。しかし『何でもいい』と言った手前、それを覆すことは憚られた。腹をくくるか、と土浦が内心で気を引き締め直すと、冬海はますますうつむいて意を決したように口を開いた。
「わ…私……、私、…………土浦先輩がいいです……!」
 土浦は冬海の口から発せられた言葉に疑問を覚えて眉を寄せた。
 冬海は、どうも土浦とは違う思考回路を持っていて、ときどき意味のわからないことを口走る。これはその最たるものだ。しかし、それも一瞬のことで、冬海の言葉の意味をやっとのことで飲み込んだ土浦は言葉を失った。
 この場面で、冬海の口から出るのはほしいものやしたいことである。ということを踏まえて考えると、冬海は土浦自身がほしい、とそう告げたのだ。
(え、なんだそれ。そういう意味で? まじで?)
 土浦の頭は混乱していた。仕方がない。冬海の言葉が足りないのだ。やましい誤解をしたところで、土浦を責められはしない。
 驚きに返事をできないでいる土浦に、うつむいたままの冬海は一生懸命に言葉をつむぐ。
「えと、その……、私、先輩からいただきたいものって、何かなって考えたんです。でも、一緒にいてくださるだけで嬉しいし、この間「おめでとう」ってお祝いの言葉をくださっただけで十分なので、お休みの日も、一緒にいていただけたら、その……、しあわせだなって……」
 申し訳なさそうに顔を伏せ、冬海は土浦の返事を待っている。ぎゅうと小さく縮んだ肩はかすかに震え、短い髪から覗くうなじはやけに赤い。その赤く染まった肌をじっとながめつづけて、ようやく土浦は息のしかたを思い出した。
 はーっと大きく息を吐き出して、椅子の上で身体を折る。
(そうだよ、そうだよな。なに勘違いしてるんだ。だって冬海だぜ?)
 土浦は期待しかけた自分が馬鹿らしくなって、身体を起こした。目の前には青ざめた冬海がいて、笑いが漏れる。小さな頭に手を伸ばすと、冬海はびくりと震えたが、気にせず髪を撫でる。
「じゃあ、ピアノつきっていうのはどうだ?」
 以前、土浦のピアノが好きだとはにかみながら言った冬海を思い出してそう告げると一転、手の下で彼女は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は本当に嬉しそうで可憐で、土浦が抱えているような欲などかけらも見えない。それに今以上の忍耐を求められていることを察して、土浦は自分の苦労を思って小さく苦笑した。
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