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2024.04.26‖
「冬海笙子お誕生日企画」さんに提出したやつ。
ヘタレ土浦が書きたかったんだなぁと読み返して思いました。



「冬海ちゃん、お誕生日おめでとう!」
 笙子が昼食を食べ終えたと同時に、目配せしあった日野と天羽が、笙子に向かって祝福の言葉を投げた。笙子は驚きに目を瞠り、大きく瞬きをし、次いでふわりとその表情を綻ばせる。同性に対しても抜群の破壊力を持つ微笑みに、先輩ふたりが思わず言葉をなくしたことに気づかず、笙子はほんのりと頬を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
 昼休みは一緒にご飯を食べよう、と昨日の夜、しかもメールで約束を取り付けられたときに期待したとおり、日野と天羽は忘れずに自分の誕生日を祝ってくれた。それが何よりも嬉しい。
 日野が腰を屈め、隠すように置いてあった紙袋から取り出した白い箱を、テーブルの上に置く。ぱかりと開かれた箱の中からはカットケーキが姿を現した。
「お誕生日といえば、ケーキだよね! というわけで用意してみました。あんまりきれいじゃないけど、気持ちはこもってるから」
 日野にフォークを手渡されて、笙子は瞬きをする。用意してあったプラスチックの皿の上に、箱の中から出されたケーキが乗せられる。さすがに生クリームたっぷりのケーキを用意することはできなかったのか、シンプルなベイクドチーズケーキがそこには鎮座している。それは、既製品にしては不格好で、切り口にフィルムが巻いていない。それに日野の言葉はそれを示すものだった。ケーキにあった視線を日野に移すと、照れくさそうに日野は笑う。
「形はよくないかもしれないけど、味見はしてあるから大丈夫だよ」
 やっぱり、と笙子は思う。
 日野は笙子のためにケーキを焼いてくれたのだ。嬉しくて言葉にならない。早く食べて、と日野に急かされ、笙子はケーキにフォークを入れる。一口含むと、ほどよい甘さが口に広がる。
「……おいしいです」
 お世辞ではなく伝えると、日野の顔が嬉しそうに崩れた。
「私からはこれ」
 はい、と天羽に渡されたのは封筒だった。やけに厚い。天羽から渡された封筒の中身は、案の定写真の束だった。封筒を開いて見えた被写体に、慌てて笙子は開きかけていた封を閉じる。
「せ、せせ、せんぱ……!」
「きっと冬海ちゃん、持ってないだろうなぁと思って」
 顔を真っ赤に染めあげた笙子に、天羽はにやりと笑ってみせる。持ってないでしょ、と確認するように問われ、笙子はこくりと頷いた。
 天羽から渡された写真に写っていたのは、笙子の初めての彼――土浦梁太郎の姿だ。
「土浦くん、写真撮られるの嫌がるけど、今年はいろいろ口実があったからたくさんあるよ。春のコンクールのも、部活のとか、あと最新のはこないだのコンサートね。でも、去年のはなくて。探した探した」
 大きく息を吐いた天羽は、すい、ともう一枚を差し出した。
「でも、個人的にオススメはこれかな」
「え?」
 天羽がもう一枚、別に寄越してきた写真には、土浦だけではなく笙子も映っている。いつどこで撮ったのか。笙子の頭に手を置いた土浦は、ついぞ見たことのない優しい笑みを浮かべていた。つきあいはじめてからの写真だ、と気づいて、笙子はただでさえ赤い頬をさらに染めあげる。
「わー、こんな顔もするんだ」
 写真をのぞきこんだ日野が、新発見とつぶやく。
「私もびっくりして、思わずシャッター切っちゃった」
 天羽も同感、というように大きく頷いて、パックジュースのストローをくわえる。
「こういうの見ちゃうと、お似合いだなーって思わざるをえないっていうか…。それにこの間、冬海ちゃんの誕生日教えたの思い出してさ。慌てて昨日の夜にメールしたってわけ。当日にお祝いできないのは残念だもんね」
 天羽の言葉に引っかかるものを覚えて、笙子はきょとんと目を向けた。
「………え?」
「え? って、今日の放課後はさすがに空いてないでしょ?」
「い、いえ…、あの………、いつもどおり、一緒に練習はするんですけど……」
 朝、日常になりつつある同伴での登校途中に「今日の放課後あいてるなら練習しようぜ」と誘われはした。だが、それはいつもどおりの口調だったので、そこに特別な意味が含まれているようには到底思えなかった。
 そのときには、笙子自身が教えていない誕生日を土浦が知るはずもなく、それで当然と思っていたのだが、こうなってみるとすっかり忘れられているか、もしくは故意に触れないようにしているのだとしか思えない。土浦がそういう記念日的なものに熱心でないのを知っていても、少しばかり気持ちが落ち込んだ。そのときに、ひとことでも祝いの言葉があれば、飛び上がるように嬉しかっただろうと笙子は悄然と首を垂れる。
 落ち込んだ笙子の様子に、日野と天羽は土浦くんに文句を言ってあげようか、などと息巻いていたが、笙子は大丈夫です、と丁重に断りを入れた。土浦に鬱陶しいと嫌われたくなかったし、日野や天羽の力を借りなければ何もできないのだと呆れられるのも嫌だった。だが、自分ひとりでは土浦を問いつめられないことは明白で、笙子は小さく息を吐いた。




「お、遅かったな」
 練習室のピアノの椅子に座って譜読みをしていた土浦は、笙子が開いたドアに気づいて顔を上げた。その表情はいつもどおりで、笙子は小さく溜め息を吐いてしまう。
「どうした?」
「い、いえ……!」
 心配げにのぞきこんでくる土浦に首を振って、笙子は荷物を置いた。そのままクラリネットを組み立てはじめる笙子に、土浦はもの言いたげな目を向け、口を開いた。
「あ…、とさ」
「はい?」
 わずかな期待を持ってクラリネットから目を上げた笙子に、土浦は言葉を詰まらせ、瞬きの間に顔を背けた。
「……いや、練習しようぜ」
「は、はい」
 気になる会話といえばそれだけで、そこからはいつもどおりの練習で、笙子は落胆した。
 いや、落胆するのはお門違いなのだ。何故と言って、誕生日を自分から告げたわけではないのだ。天羽から聞いたのだろうと問い詰めて、祝ってくれと強要するのは厚かましすぎる。
 いつもどおりの練習を、いつもどおりに終え、いつもどおりに帰路につく。こうして一緒にいる時間が当たり前になって、自分は少しわがままになっているなと笙子は思った。土浦に想いが通じて、土浦が自分のために時間を割いてくれることが、当然だと思ってはいけないのだ。一緒にいてくれることこそが、何よりのプレゼントなのだから。自分が教えてもいない誕生日のことで落ち込むなんて、わがままにすぎる。土浦からの祝いの言葉がほしいのならば、今からでも今日が自分の誕生日なのだと告げるべきだ。
 そう決意しつつも、どのタイミングで言えばいいのか逡巡していると、土浦が意を決したように笙子を呼んだ。
「…………ふ、冬海」
 土浦がどもることなど珍しいので、笙子は少し緊張した。背の高い彼を見上げると、冬の早い夕暮れに土浦の顔が赤く染まっている。
「な、何でしょうか?」
 笙子が瞬きをすると、土浦が大きく息を吸い込んだ。
「誕生日おめでとう」
「………え?」
 足を止めて土浦を見上げる。
「この間、天羽から聞いたんだ。でも学校じゃあいつらにからかわれそうでさ。………歩こうぜ」
 促され、戸惑って見上げると、恥ずかしそうに視線を外した土浦の大きな手が笙子の手を掴む。心の準備もないままに触れあうことになって、心臓が突然大きく脈打ちはじめる。顔が熱くてかなわない。
 強く引っ張られて土浦の後ろを追いかけるかたちになった。見上げたままの土浦の耳が、わずかに赤い。
「プレゼント用意しようかと思ったんだけど、お前が気に入ってくれるのかって考えはじめたら、ただでさえどんなのがいいのかわからないのに、余計にわからなくなってさ」
 土浦は言葉を切った。手を握る土浦の手のひらがわずかに湿っていて、彼も緊張しているのだとわかれば、その緊張がこちらにも移ってくる。
 心臓がどきどき大きな音で脈打った。息が上手にできなくて、息苦しい。顔はいつもに増して熱く、足元もおぼつかない。どうしてか涙が浮かんできて、視界がぼやけた。握られた手も、反対側で鞄を持つ手も汗ばんできて震えそうだ。それをこらえるためにぎゅっと身体を縮めた笙子に気づかずに、土浦は照れた声色で続ける。
「………だから、その…、何だ……」
 またもや珍しいことに、土浦は言いよどんでこちらを向いた。声と同じように照れくさそうに笑いながら、握る手に力がこもる。
「今度の休み、お前のしたいことしよう」
「え?」
「お前のしたいこと、行きたいところ、どこでも、何でもいい。俺もつきあうから、ちゃんと考えとけよ」
 ぐるぐると土浦の言葉が脳内を回る。かみ砕いて飲み込むと、それは紛れもなくデートのお誘いで、笙子は熱の集まった頭が爆発しそうな気さえした。声を出すことができなくて、どうにか頷く笙子に、土浦は優しい笑顔を返した。それは天羽からもらった写真に収まった笑顔よりも、数倍優しく、数倍素敵な笑顔だった。



2010.11.03up
冬海ちゃんも大好きだけど、そんな冬海ちゃんに振り回されて駄目な土浦も大好きです。
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