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2024.03.30‖
お題というわけではないですが、四季で。
土浦視点の短文。





 強い風に目を閉じる。
 桜吹雪が舞い上がって、先を行く冬海の身体を覆い隠した。
 慌てて追いかけて、細い腕を取る。そのまま引き寄せて、それが本物だとほっと息を吐く。
 腕の中におさまった熱いかたまりは、恥ずかしそうにもぞもぞと動いて、そのくすぐったさに思わず笑いがもれた。
「どこにも行くなよ」
 風にさらわれないように、耳元で告げれば、抱いた身体が驚くほどに熱くなる。
「……はい」
 冬海は小さく小さく答えて、背中に腕を回してくる。
 ぎゅっと抱きついてくる冬海がかわいくて、力いっぱいに抱きしめかえした。





 思わず、小さな身体を抱きしめた。
 うだるような暑さ。耳障りな蝉の声。汗が滴る。陽に肌が焼ける。
 腕の中にいる冬海は最初小さく震えて、次いで呟くように暑いです、と言う。
 そうだよな、とこちらも呟くように答えて離そうとすると、細い腕が胸にすがってくる。
「暑いんじゃないのか」
「暑いです……」
 でも、と冬海は小さく言って、目をふせた。胸にすり、と頬を寄せる。
 離さないで、と哀願するような響きに、思考がショートした。





 ずる、と足元が滑ったのは落ち葉のせいらしい。
 軽い身体は後ろにいた俺の胸の中に倒れこんできて、せっかくなのでそのまま抱きしめた。
「せ、先輩……!」
 うろたえる声がかわいい。
 どうしよう、と慌ててきょろきょろと視線を動かすのがかわいい。
 腕を離そうと一生懸命なのもかわいい。
 だけど、離してなんかやらない。
 頭のてっぺんにキスを落として、抱きしめる腕に力を込める。
「もう少し、このまま」
 低い声で告げれば、冬海はうなじまで真っ赤に染めて、こくりとうなずいた。





「寒いですね…」
 言葉とともに、白い息を吐き出す冬海を横目に見る。
 空気は冷たくて、身体から容赦なく熱を奪っていく。
 冬海の鼻の頭も、頬も、耳も、手袋を忘れた指先も真っ赤に染まっていて、温めてやりたくなる。
 はあ、と指に息を吐きかけるのを見て、その手を両手でつかんだ。
 びっくりしたように目を上げてくる冬海にかまわず、そのままコートのポケットに自分の手ごとつっこんだ。
 左右の手を、それぞれのポケットに入れたので、遠目からはまるで抱きしめ合っているように見えるだろう。
 振れている冷たい指先に、みるみる熱が集まっていく。
 目線を下ろせば、きっと真っ赤になった冬海がいるだろうが、そちらを見ることはできなかった。
 自分の顔も負けず劣らず真っ赤になっているのを自覚していたから、小さな手を握りしめたまま空を仰いだ。
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