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2024.04.26‖
 学院祭の、最終イベント。
 ワルツが聞こえる。



(馬鹿みたいじゃない?)
 香穂子は憤慨していた。
 あの人が白いドレスが好きだと言ったから、今回のコンサートも白いドレスを着てみた。
 コンサート参加者のみんなが好きな色なんて実は知っていたけど、それでも褒めてほしかったのは…、見てほしかったのは一人だけだったから、白いドレスを選んだ。
 それでも誘ってきた人たちにはごめんなさいをして、楽しそうに踊っている人たちの間を縫って歩いた。どこかにいるのだと、思ったから。
(どうして、ここにいないの? あの不良教師!)
 監督として、何人かの教師を見た。けれどその中に探している人はいなかった。
 けれど面と向かって「金澤先生を知りませんか?」などと尋ねるつもりはない。
 二人の曖昧な関係は秘密で、知られてはいけないものだったから。
 はぁ、と大きくため息をつく。
 どこにいるのか、なんて考えていても仕方ない。
 また探すのかな、とぼんやりと考えた。
 いつもいつも、あの人の姿を探している。
 音楽準備室は職場で、屋上へは煙草を吸いに、森の広場では猫と遊んで。
 学校内のどこかにいるのはわかっていたから、探すのだって楽しかった。
 けれど、今日は?
(まだ残ってるのかな…)
 コンサートのときにはいた。やっぱりドレスを褒めてくれて、とても優しい顔をしていた。ただそれだけなのに嬉しくて、コンサートでは浮かれまくった音で弾いた。テーマが彩華でよかったと思いながら、弾いた。
 それなのに、会えないだけで一気にどん底だ。
(あーあ、会えないなら帰ろうかな)
 荷物を取りに行かなきゃいけないんだ、とまた一層気分が沈む。
 コンサートが終わったままこちらへ向かったから、荷物は講堂の控え室だ。
 さっき来るときには、楽しいことが待っているんだとウキウキしていたのに、今では校門前のライトアップも、エントランスから漏れてくるワルツも煩わしい。
 何もかも金澤のせいだと苛立ちまじりにエントランスのドアを乱暴に開いた。
 外は木枯らしが吹いていて、それすら気分を荒ませる。
 香穂子はそのまま、寒空に身体を投げ出した。


* * * * *


「……………何で、いるの?」
 エントランスから講堂まで、ライトアップされた中をたった一人で夜道を歩き、講堂についてみれば、ロビーに見覚えのある後ろ頭がある。
 無造作にくくられた癖のある髪は、間違いなく探していた人のものだった。
 大股に近寄って、ソファに座ったままの金澤を見下ろす。
「何だ何だ? 後夜祭まだ終わりじゃないだろう」
 腕時計を確認する金澤に、香穂子はそんなことはどうでもいいとばかりに噛みついた。
「そんなことより! 何で先生がここにいるの?」
「何でって、そりゃ、ここが俺の担当区域だから」
「………はぁ?」
「お前さんたちの荷物があるだろう。その荷物番だ」
 あっけらかんと笑われると、さっきまでの怒りだか寂しさだか憤りだかが空しく思えてくる。
「そう、ですか…」
 どうにも納得できないものがある。
 それでも、会えたことがただ嬉しかった。
「どうしたんだ? 何だ、俺がいなくて寂しかったのか?」
 笑いまじりに戯けられたが、それは本当なので頷いた。
「おいおい、冗談も……」
「だって、会えないかと思った…!」
 呆れるような金澤の声を遮った。
 踊れなくていいと思っていた。
 今年も来年も、一緒に踊れるとは思っていない。
 それでも近くにいて、話をして、笑って。そんな風には過ごせると思っていたのに、会場に金澤の姿はなくて、どこにいるのかもわからなくて、もしかしたら帰っているんじゃないかとまで考えて。
「………それで、後夜祭抜けてきたのか?」
 また頷く。
 声を出したら、泣きそうだった。
 俯いてドレスを握る。やっと会えたのに顔を見たら泣きそうで、だから香穂子はそのとき金澤がどんな顔をしていたのか知らない。
「…………まったく」
 大きなため息。
 呆れられたのかと、ビクリと身体をすくませて、目を強く閉じた。
「物好きだよな、お前さん」
 握りしめていた手を解かれて、骨張った大きな手に包まれる。
 驚いて顔を上げれば、慣れた仕草で唇が手の甲に落ちた。
「…………ッ!」
「踊るか」
「は?」
「ワルツ」
 照れているような、嬉しそうな。
 そんな顔で、金澤が動く。
「ホラ、左手は添えるだけ、右手はこうして」
 ぎゅ、と握りしめられる。
 腰に腕を回されて、身体が密着する。恥ずかしくて慌てて離れようとするのを制して、金澤が耳元で低く囁いた。
「離れるなよ?」
「あああ、あの、でも、先生」
 抱き寄せられるような態勢のまま、顔を向けられて、その至近距離に心臓が壊れそうになる。
「ん?」
「私、踊れないし、音楽も……」
「テクニックも音楽も、なくても踊れる」
 笑う金澤がひどく優しかった。
「相手さえいれば、踊れるんだよ」
 ステップを踏まれて、軽やかに身体が舞った。
 ああ、本当に。
 こんな風に踊れるなら、こんな夜も悪くない。




コルダ2、先生ルート補完。
だって、踊れなかったから…!
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