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2024.11.26‖
S.Y.K.
悟空ED後独白。



 悟空は空を仰いだ。
 青く高い空は穏やかに晴れている。もう何の脅威もない。天冥地の間には、釈迦如来の力で境界線が引かれ、各界は互いの干渉を受けることなく存在することができるようになった。それを成し遂げたのは、ただの人である玄奘だ。悟空が閻魔王として冥界に君臨している間にもできなかったことを、玄奘は遂げてみせた。それは、玄奘がただの人だからできたのだと悟空は思う。
 天界に属していても、冥界に属していても同じ。自分の居場所を失うことは、仙にも妖怪にもできはしない。人だけが、自らの居場所を作るために力を尽くすことができる。だからこそ、三界は等しく存在することが許されて、秩序を保つことができている。
 ぼう、と空を見上げながら考える。
 この平和は、彼女の尽力の賜物だ。彼女の頑固なまでの、あの真っ直ぐな心根が、それをなした。
 道中の無謀を思い出せば、手放しで彼女を褒めることはできないし、する気もないけれど、それでも一介の人に過ぎない彼女がこの平和を齎したというのだけは事実だ。
 自分の、この人の身体も同様に。
 人になるなど、考えたこともなかった。冥界の王であった時代も、玄奘との旅の途中にも。けれど、如来に問われたときには、答えは出ていた。
 あんなに強大な力は必要ない、と。
 それよりも、玄奘とともに生きたい、と。
 我ながら、頭が煮えているとしか思えない。数百年の生は、とっくの昔に色情を捨てていたはずなのに、どうしてあんなに面倒な女に捕まってしまったのか。
 くつくつと喉の奥から笑いが漏れる。
 永遠の生も、何もかもを統べることのできる力も、玄奘の隣りにいられるということの前には霧散する。愚かな選択の上になりたつ今は、こんなにも心を満たしている。冥界にいたころにも、五行山に閉じこめられていたときにも知らなかった充実感。幸福、という言葉の意味をはじめて実感して、悟空は草の上にごろりと横になった。気持ちのいい風が吹き抜けていく。それに眠気を誘われて、悟空は大きくあくびをした。
 子どもの世話を放り出して、こうして昼寝をしていれば、玄奘はきっと起こしにくるはずだから。
 怒られるとわかっているのに、笑みが漏れる。あの目に自分が映っているとそれだけで、どうしてこんなに満ちるのか。怒っていても、笑っていても、たとえ泣いていても。その感情がすべてこちらに向いているのなら、それだけで。
 愛しい、とだた思う。
 悟空はそんな自分の胸の内に苦笑しながら、しばらくすればやってくる自分の名を呼ぶ恋しい人を思い浮かべながら瞳を閉じた。
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2009.09.12‖その他
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