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2024.04.20‖
2007.11.3のコルダオンリーで配ったペーパー用に書いた話。
テーマ:登校。



 冬の朝の布団の中は天国だ。
 そんな至福を味わっていたのに、耳障りな時計の音が聞こえてきて、がつりと掴んで音を止めた。寝起きでぼやける視界に時計の針がはっきりと飛び込んできて、一気に覚醒する。慌てて飛び起き、歯を磨いて、顔を洗って、制服を着る。とてもじゃないけれど、朝ご飯を食べている余裕はない。
 まだ早いんじゃないの? というお母さんの言葉に首を振って家を出た。

 走って走って。
 吐き出す息が白く濁って、吸い込む空気が気管を冷やす。頬が赤くなっているのは寒いからなのか、それとも走っているからなのか。いや、そんなことはどうでもいい。
 駆けて、家から学校までの途中にある、駅とぶつかる大きな交差点に、その背中を見つけた。思わず顔が緩む。
 早い時間に家を出れば、大抵姿を見つけることができた。朝早いから、他に登校している生徒もまばらだ。だから、この時間はとても大切。
 信号待ちをしているその背中にむかって、息を切らしたまま声をかける。
「金澤先生、おはようございます!」
「おお、日野。おはよう。早いな」
 振り向いた先生は、私を見て少し笑う。
「ぐしゃぐしゃだぞ、頭」
 ふ、と綻んだ顔に見とれていると、先生の手が髪を撫でつけていく。みっともない姿を見られてしまったことと、先生の手があんまりに優しいことのどちらも恥ずかしすぎて、顔が赤く染まっていく。
 そんなことをしているうちに、信号が青に変わった。真っ赤になった頬に手を当てながら、先生の隣を歩く。
 ささやかだけど、これが至福の、とても大事な時間。
 そのために朝ご飯を抜いてきたお腹が、ぐうと鳴った。
「………!」
 慌ててお腹を押さえて先生を見るけれど、音は聞こえてしまっていたようだった。先生は少しびっくりしたような顔をして、次の瞬間苦笑した。
「ダイエットか? 成長期なんだから、食わんともたんだろう」
 ぽん、と頭の上に置かれた手に、子ども扱いをされている気がしてふてくされる。こういう態度も子どもっぽいのはわかっているけれど、仕方がない。
「………違います」
「? じゃあ、何だ」
「…寝坊です」
 始業するにはまだ早い時間だ。理解に苦しむ、という顔をしている先生に向かって、まだ恥ずかしさに赤らむ顔を向けて、私は言った。毒を食らわば皿まで。どうせもう恥ずかしい思いはしているのだから、はっきりと伝えておきたい。どうせ先生は、乙女心なんて察してくれないだろうから。
「だって、朝、先生に会えるの、この時間だけなんですも
ん」
 この時間なら一緒に学校に行けるから、と呟くと、視界の端でぴたりと先生の身体が止まった。
 私も足を止めて、先生を見上げる。先生は赤い顔をしていて、口元を大きな手で覆い隠していた。もしかしたら私の顔より赤いかもしれない。
「先生?」
 覗きこむようにすると、視線を逸らして大きく息を吐く。がりがりと頭を掻いて、不思議に首を傾げたままの私を見た。
「お前さんなぁ…」
 先生は何か言いかけて、やめる。代わりにとびきりに優しい笑顔を向けて告げた。
「準備室寄ってくか」
「え?」
「コーヒーくらい、淹れてやる」
 唐突な提案に目をぱちくりさせると、先生は私の頭をぐしゃりと撫でる。
「これからは朝飯しっかり食ってからこい。俺は準備室にいるから」
 いつでもおいで、と先生は甘い甘い声で誘った。

 ねえ、先生は知っている?
 先生のそんな一言が、私をこんなに幸せにしてくれること。
 驚きに目を丸くして、けれど嬉しさに緩む頬を抑えきれずに頷くと、先生は困ったように微笑んで、そして小さく「参った」と呟いた。
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