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2017.10.23‖
ひめひび2/明良×菜々美
2話目



 覚醒のきっかけは光。明良が眩しいと顔をしかめたのは、窓から入ってくる朝日によるものだった。窓の側に佇む菜々美が、カーテンの端を持って、ぼうっとこちらを見ている。それに気づいて明良は眉を寄せ、寝起きのはっきりとしない頭のまま、身体をむくりと起こした。それを目にした菜々美は、びく、と大げさに震えてカーテンから手を離す。
「………? おはよう、菜々美」
「お…、おは、よう」
 不明瞭な明良の挨拶に、菜々美が上擦った声で返事を返してくる。
 それに朝だ、とゆるゆると頭が認識をはじめ、身体が目覚めたという信号を送りはじめる。うん、と伸びをすると、身体の上から毛布が落ちた。それを眺めてしばらく、明良はようやく自分がいる場所を把握する。
 ここはそう、リビングだ。身体の下にはベッドではなくソファ。テーブルの上には、眼鏡と書類が残っている。昨晩のことを思い出して、明良は寝ぼけた頭を一振りする。
 菜々美に風呂を勧めて、その間にテーブルの上に置いてある書類の整理をしてしまおうと思ったのだ。けれど週末で気が緩んだのか、それとも連日の疲れからか、急に睡魔が襲ってきて、ソファにもたれて少しだけ、と目を閉じたのだが、そのまま眠ってしまったのか、と明良は覚めきらない頭で考える。成人男子の身体を、菜々美が運べるはずもない。それでこの毛布なのだろうと推測して、明良は菜々美を見た。
「菜々美がかけてくれたのか? ありがとうな」
 礼を言うと、菜々美はぶんぶんと首を振った。
「う、ううん! お兄ちゃん、こんなところで寝ちゃうから、風邪ひいたら困るなって、だから」
 菜々美と交わす会話に、やっと頭のもやが晴れてくる。明良はそこで、落ち着きのない菜々美の様子に気づくことになった。
 パジャマ姿のまま、というのがまずおかしい。
 菜々美は何でも一人でしてしまう子だった。明良が大学へ入る前、それこそ幼いと呼ばれる時期には、甘えん坊で泣き虫で明良にべったりとついて回る子だったが、両親を亡くしてからは明良の手を煩わせないようにと努力している。明良もそれに気づいているから、無理はさせないように、けれどなるべく菜々美の意思を尊重して過ごしてきた。
 毎日の朝食を用意してくれる菜々美は、きちんと着替えをする。それは平日でも休日でも変わらなかった。
 それなのに、今日に限ってまだパジャマ。時計を見れば八時半を回っている。いつもならば、すでに学校に着いている時間だ。これはおかしい。
 しかし、そういう日もあるだろうと、明良は立ち上がる。今日は土曜で学校は休みだし、明良だって昨日はこうしてソファで眠ってしまったのだから、いつもと違うことがあってもいい。それにゆっくりできるときには、ゆっくりと休息を取るべきだ。日頃、菜々美にいろいろと苦労をかけていると自覚のある明良は、そう思いながら菜々美に笑顔を向けた。
「ああ、おかげで風邪もひかずにすみそうだ」
 毛布を畳みながら告げれば、菜々美は動揺に瞳を揺らす。
「………菜々美?」
 その様子に目を瞬かせ、怪訝に思って明良は菜々美を呼ぶが、菜々美は慌てたように身を翻す。
「わ、私、朝ご飯作るね! トーストと卵でいい?」
「あ、ああ。構わんが…」
「じゃあ、お兄ちゃんは顔洗ってきて。その間に用意しちゃうから」
 キッチンに駆けこむ菜々美を見送って、明良は小さな違和感を覚えた。
 それが何か気づいたのは、やはり菜々美から齎される違和感によるものだった。菜々美はいつもスリッパを履いているのに、今日に限って素足だった。だから、パタパタと床を蹴る聞き慣れた音が今日は聞こえなかったのだと、そう気づいたのは、朝食のトーストを一口齧ったときだった。


 食後のコーヒーを飲みながら、明良はじっと菜々美を見た。
 菜々美は未だパジャマである。明良も昨日の服のままなのだから、あまり強くは言えないが、そんな明良を注意することのない菜々美こそがおかしい。
 そして、明良が食事を終えるころになっても、菜々美の皿には料理が乗ったままだ。トーストも半分ほどが残っていて、オムレツを作ろうとして失敗したとしか思えないスクランブルエッグにも、ほとんど口をつけていない。
 顔を赤くしたり青くしたりするので体調が悪いのかと疑いもしたが、それ以上に菜々美の様子がおかしすぎた。
 トーストを一口齧っては、ぼうっと宙を見据えて、かと思えばハッとしたように首を振ってみせる。そんなことを繰り返して、明良がその様子をずっと見ていることにも気づいていないようだった。食事は楽しく、がモットーの上河家では、食事の時間に会話があるのが普通なのだが、今日はそれもない。
 ことん、と音を立てて、明良はコーヒーカップをテーブルの上に置いた。
「ごちそうさま」
 普段より少し大きな食後の挨拶に、はっとしたように菜々美は明良に焦点を合わせる。
「お、お兄ちゃん、食べるの早いね。もう終わったの?」
 慌ててトーストの残りを口に運びながら、菜々美は笑みを顔に貼りつける。明良は眉を寄せ、首を振った。
「俺はいつもどおりだ。おかしいのはお前だぞ、菜々美」
 明良の言葉に、菜々美の目が泳ぐ。
「そ…、そんなことない……よ」
 自信なさげな菜々美に、明良は大きくため息を吐く。
「そんなこと、大ありだ。もうトーストだって冷めてるだろう? コーヒーだって、それブラックだぞ」
「え?」
 菜々美は明良と違い、コーヒーをブラックでは飲まない。たっぷりの牛乳と砂糖を入れた、まろやかなカフェオレが好きなのだ。それなのに、今日は苦いといって飲まないブラックコーヒーを、そのまま飲んでいた。明良でなくても、おかしいと思うに違いない。
 明良はもう一度、深々と溜め息を吐いて、菜々美の目を真っ直ぐに覗きこんで告げた。
「菜々美、お兄ちゃんに隠し事するのはやめなさい。何があったんだ?」
 話しなさい、と言えば、菜々美は食べかけのトーストを皿に置いて、ぎゅっと膝のあたりを掴んで項垂れた。その首が力なく左右に振られる。
「菜々美……!」
「お、お兄ちゃんには言えないの!」
 声を荒げた明良に、菜々美はかたくなに首を振る。
「お兄ちゃんだけには、言えない……」
 悄然とする菜々美に、明良は声を失った。
 仲のいい兄妹だと思っていた。今までもこれからも、ずっとそうだと信じていた。
 天城寺学園でのできごとは、明良と菜々美の関係を、よりよい方向へと変えたはずだ。これからは何でも話して、ふたりで決めていこうと、そう笑いあったばかりのはずなのに。
 明良はぐっと奥歯をかみ締める。あのとき、菜々美は悩んで苦しんで泣いてまで明良と離れない道を選んだけれど、菜々美を手放せないでいるのは明良のほうだ。
『菜々美の実の兄でなかったら』
 血迷うにもほどがあるとわかりながら、そう考えることすらある。
 本当は、菜々美の恋愛相談など聞きたくもない。菜々美が自分以外を大事に思って、そしてやがては自分の下を去っていくのだと考えただけで震えが走る。それが菜々美の願いならと、そう思えばこそ耐えられるのであって、それ以上を求められても難しい。
 菜々美の幸せを願ってもいるし、祝福したいとも思うが、できればその隣にはいつも自分がいたい。そんな叶いもしない欲望が、確かに明良の中にはあった。叶わないと知っていても、明良はそれを捨てることができないのだ。
 ゆっくりと息を吐いて、明良は小さくなって震える菜々美を見つめた。そして、一瞬まぶたを閉じる。
 手放す日は、いつか来るのだと知っていたけれど、予想以上に早いと、全然覚悟などできていない自分を自嘲する。まぶたを上げて、明良は顔に笑みを貼りつけた。これではさっきの菜々美と同じだと、苦笑がにじむ。
「………わかったよ。追及はしない。お前も、お兄ちゃんに話せないような秘密ができる歳なんだな」
 精一杯、保護者を装って告げると、食べ終えた皿を手にして明良は立ち上がった。
「洗い物はあとでお兄ちゃんがするから、食べ終わったら出しときなさい。俺は部屋に戻って着替えてくるから」
 言い置いてキッチンへと足を向けた明良は、リビングに残された菜々美を振り返らなかった。重く暗い何かが胸につかえて、ひどく気分が悪かった。



 

2009.07.14up
お兄ちゃんの悩み。
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